研究課題/領域番号 |
05041103
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 学術調査 |
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
井田 齊 北里大学, 水産学部, 教授 (90050533)
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研究分担者 |
SMOKER W.W. アラスカ大学, フェアバンクス校水産海洋学部・ジュノーセンター, 教授
GHARRETT A.J アラスカ大学, フェアバンクス校水産海洋学部・ジュノーセンター, 教授
広野 育生 宮崎大学, 農学部, 特別研究員
酒井 正博 宮崎大学, 農学部, 講師 (20178536)
林崎 健一 北里大学, 水産学部, 助手 (80208636)
神谷 久男 北里大学, 水産学部, 教授 (80011964)
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研究期間 (年度) |
1993
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キーワード | MHC遺伝子 / mtDNA / アイソザイム / レクチン / サケ科魚類 / 系群 / シロザケ / カラフトマス |
研究概要 |
サケ科魚類は、わが国の水産資源として最も重要な魚類群の一つであり、各地で孵化放流が行われて資源の増大が図られている。安定した資源維持のためには、資源管理が不可欠である。そのため系群判別の精度の向上が急務となっている。本研究では、シロザケ、カラフトマスを対象魚種とし、MHC遺伝子、アイソザイム、形態形質の各特性を用いて、日本系群とアラスカ系群との比較を行った。さらに、レクチンの機能と構造および形態形質の各特性から種間の差異を検討した。 1.MHC遺伝子の解析は、MHCクラス1遺伝子のクローニングを試みた。各ドメインをクローニングするための6種のプライマーを作成し、これらのプライマーを用いて、PCR法によりDNAの増幅を行った。シロザケ、カラフトマスともにα-1ドメインのみ増幅が認められた。 カラフトマスにおいては、北海道の1992,1993年のサンプルでは、塩基配列が大きく異なった。すなわち、全体では17塩基の相違が見られたのみならず、サイズも異なり、1992年度のサンプルには6塩基の挿入が確認された。さらに、アラスカで採取したサンプルには、この2つの異なった塩基配列が、同一個体から検出された。 カラフトマスは2年で回帰することが知られており、年級間の差は、河川間の差よりも大きいことがアイソザイム分析などにより明らかにされている。今回のMHCクラス1α-1ドメインの解析からも偶数年と奇数年とでは、著しくアミノ酸の配列が異なり、さらにサイズまで異なることが示された。また、北海道では、各年級に分れて存在する遺伝子が、アラスカの同一個体の中に両方存在する事実は大変興味深い。今後さらに多くのサンプルを解析してこの事実を確認する必要がある。 系群判別の可能性に関しては、さらに多くの個体や、異なった場所の魚を比較することが必要であるが、少なくとも今回用いたサンプルに関してはMHCクラス1α-1ドメインのDNA塩基配列によって系群を判別することが可能であった。 シロザケに関しては、MHCクラス1α-1ドメインの個体内、個体間変異ともに大きかった。そのため、たとえば岩手と北海道の個体を比較すると、あるクローンでは塩基配列に大きな差(8塩基)が認められるが、別のクローンではわずか2塩基の差であった。さらに、アラスカで採取したサンプルでは日本の系群で有効であったプライマーではDNAが増幅せず、新たなプライマーを作成し、これによりMHCクラス1α-1ドメインの増幅が確認できた。 このように、種間で変異の程度が異なっていた。このことは2種の生態的な差を反映したものかもしれない。 2.レクチン 日本産のシロザケ、ニジマスおよびアラスカ産のカラフトマス、ベニザケ、マスノスケの卵を用いた。糖結合特異性試験の結果から、シロザケ、ニジマスはL-ラムノースカラムにより効率良くレクチンを精製することができた。さらにN末端部分のアミノ酸配列を分析したところ、分析できなかった2,3の残基をのぞき2者の配列は全く一致していた。これまで全く情報のなかったサケ科魚類レクチンの構造に関する種間の相同性に関する新知験として大変興味深い。 3.mtDNA ギンザケのmtDNAの増幅を目的として設計されたPCR用プライマーを用いて、シロザケmtDNAの増幅を試みた。ほとんどの部分が増幅されることが明かとなった。予備的な実験として、岩手系群のサンプルを用いて2,3の制限酵素で切断型分析を行ったところ変異をもつ個体が見られた。詳細は今後の検討に待ちたい。 4.アイソザイム 岩手県系群を詳細に検討した。また、世界各国の遺伝子頻度データの拾得に努めた。さらに、対立遺伝子データの相互比較のため、日本とアラスカサンプルの対立遺伝子の同定を行った。 本研究の目的は、より精度の高いサケ科魚類の系群判別手法を開発すると同時に従来の手法も含めて各手法の精度と特性を総合的に比較検討することにある。さらにサケ科魚類の種間の変異性をも検討した。本研究課題は単年度課題でもあり、本調査で得られた試料の多くはいまだ解析中である。しかし、MHC遺伝子のように系群判別の新しい手法の可能性を示唆する結果も得られた。今後さらに、採集系群および個体数を増やすことにより、検証を行いたい。
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