研究分担者 |
WORAWUT Rerk カセサート大学, 獣医学部, 助教授
NARONG Chung カセサート大学, 獣医学部, 副教授
遠藤 秀紀 国立科学博物館, 動物部, 研究官 (30249908)
木村 順平 日本大学, 農獣医学部, 講師 (30177919)
松本 芳嗣 東京大学, 農学部, 助教授 (00173922)
九郎丸 正道 東京大学, 農学部, 助教授 (00148636)
川本 芳 京都大学, 霊長類研究所, 助教授 (00177750)
林 良博 東京大学, 農学部, 教授 (90092303)
山田 純三 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (10003104)
庄武 孝義 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (00003103)
RERKAMNUAYCHOKE Worawut Kasetsart Univ., Fac.of Vet.Med., Thailand
CHUNGSAMARNYART Narong Kasetsart Univ., Fac.of Vet.Med., Thailand
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研究概要 |
5年12月21日〜6年1月18日および6年12月2日〜12月30日の両期間に現地調査が行われ,以下のように材料収集がなされた。平成6年度の材料収集に関する分析は進行中であるが,現在までに次の結果が得られた。 1.収集地点は北部1,東北部2,中央部2,南東部1および南部1で,タイ全土におよぶ。収集動物種にはコモンツパイとホソオツパイのほか,リス,タケネズミおよびオニネズミが含まれる。 2.コモンツパイの血漿タンパク質6座位の遺伝的変異を検索したところ,プレアルブミン,アルブミン,トランスフェリンおよびVD結合タンパク質に多型がみられた。その平均ヘテロ結合率をみると,ツパイは霊長類各種より高く,またどの座位も地域ごとに遺伝子頻度が大きく入れ違っており,地域内ごとの遺伝子の交流は少ないと考えられる。 3.コモンツパイの消化管内分泌細胞を免疫組織化学的に検索し,各種内分泌細胞の消化管内分布と相対的出現頻度を以下のように明らかにした。これらの結果を既報の各種動物の成績と比較すると,ツパイではモチリン細胞の分布域が広範囲であることが最も特徴的であった。 4.コモンツパイのミトコンドリアDNAの変異を,13種類の6塩基認識酵素の切断パターンによって検索した。地域集団間の遺伝的分化は,インドシナ亜区域の4地点(Trat,Khao Yai,Pak Chong,Nonthaburi)とスンダ亜区域と1地(Hat Yai)の間で分化の程度が著しい。また2地点(Khao YaiとHat Yai)で集団内の多型が確認された。 5.コモンツパイの精巣は,腹腔内精巣をもつ近縁の食虫目とは異なり,腹腔外(陰嚢)にある。また精子発生についても,先体系の変態と糖鎖の動態(レクチン組織化学)には,食虫目と明らかな差がみられた。さらにツパイのみの特徴として先体形成期の精子細胞にもミトコンドリアの凝集が認められた。 6.コモンツパイの生殖機能系における近縁動物との免疫学的類縁関係を調べるため,繁殖期の精巣を抗原としてモノクローナル抗体(mAb)・NCS-1をえた.異種動物30器官の酵素抗体法による検索の結果,このmABのエピトープはツパイの精子細胞から精子までに特異的であることが明らかにされた。 7.ツパイの主要組織適合型複合体(MHC)クラスII遺伝子を解析するため,脾臓より抽出したmRNAを鋳型として,ヒトMHCII(HLA)DQB'0302塩基配列のPCRを用いて増幅した。増幅産物をクローニングし,塩基配列を決定したところ,CL1はDQB,CL2はDRB,CL3はDPB遺伝子と高い相同性を示し,ヒトDP,DQ,DR各亜領域に相当する領域がツパイにも存在する可能性が明らかにされた。 8.コモンツパイの卵巣を抗原としてmAbを作製し,黄体細胞,内卵胞膜細胞精巣間細胞および副腎皮質細胞と特異的に反応するmAb・T2C9をえた。また,コウモリ,ラット,ハムスター,スナネズミ,ウサギ,ネコ,ヤギ,ヒツジの黄体と副腎皮質を用いた検索の結果,ヤギとヒツジのみ陽性反応がみられた。この抗体の分子量は約15〜16KDaで過ヨウ素酸処理で減弱せず,ステロイド合成に関与する種特異性の高いタンパク分子を認識していると考えられる。 9.多くの哺乳類の胸腔内主要静脈壁に存在する心筋組織が,コモンツパイでも発達しており,免疫組織化学的にANP陽性細胞の存在が証明された。ツパイ類は最も原始的な有胎盤類で,原始的真獣類から霊長類への移行段階を示すといわれるので,静脈壁の心筋組織は系統進化的に古い起源を持つことが確認された。
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