研究概要 |
パプアニューギニア低地のバロパ族における本調査の主要な調査結果は,以下のとおりである。 1.バロパ族は沿岸部という自然環境条件と,農村部としては最も近代化しているという文化環境条件を反映し,3島(ロウ,パム,バルアン)間での相異はあるものの,動物性食物を漁撈による魚介類に強く依存し,植物性食物を栽培するヤム,キャッサバ,バナナなどの焼畑作物と購入する米,小麦粉にほぼ半々に依存していた。また,調理には油(ココナツオイルと購入する植物油)がきわめて頻繁に用いられていた。 2.生体計測,尿検査等の栄養状態の評価の結果,小児の発育は概して良好なものの,成人においては大きな個人差が男女ともに観察された。例えば,肥満度を表すBMIが28以上の者は男性で20%強,女性で30%近くとなった。しかしながら,成人男女約700名から採血した結果,ヘモグロビン及びヘマトクリット値からみても貧血と判定される者は10%以上であった。これらのことは,鉄代謝,マラリア・寄生虫症との関連から今後詳細に検討する。 3.罹病歴・死因の調査結果から,高血圧,糖尿病等の罹患率が他の農村部の集団より著しく高かった。マラリア・寄生虫症等の風土病が一部に残るものの疾病構造は先進国型に近似する傾向が顕著にみられた。 4.生涯出生数は再生産を最近終了した年代の女性で平均して6人程度であった。本研究の他の対象集団と比較して,不妊または1人しか出産しない女性は著しく少なかった。また,都市部への人工移動数が多いことも特徴で,特に20歳代の男性では約半数にのぼっている。 バロパ族の適応機構は,昨年度調査した高地集団ときわめて異なることが明らかであり,来年度は予定どおり山麓部の集団での調査研究を行う。
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