研究課題
国際学術研究
1、研究の背景中国産高等植物は、古くからいわゆる漢方生薬として広く一般に治療薬として用いられてきた。我々は広く中国産高等植物について制癌活性試験を行なった結果、ジンチョウゲ科に属する瑞香狼毒から非常に制癌活性の強い新物質を単離した。瑞香狼毒などの植物は中国西部高原地域に広く分布しているので、青海湖を中心とした青海省および甘粛省で調査をする必要があった。また我々が瑞香狼毒から分離した新制癌物質はその作用の特性と活性の強さから臨床応用が予想されるので、医薬品資源としての可能性について、調査研究する必要性があり、中国側の協力を得て、平成5年度文部省国際学術研究、がん特別調査として調査研究を行なった。2、研究の内容平成5年7月から8月にかけて、中国科学院西北高原生物研究所の協力を得て、青海省西寧から青海湖周辺の瑞香狼毒などジンチョウゲ科植物を調査した。また同研究所海北站支所および甘粛省柳園周辺の植物調査を行なった。さらに四川省成都において、一般に中国で用いられている漢方生薬について調査した。またできるものについては、その制癌活性試験などの生理活性試験を行なった。3、研究進捗状況瑞香狼毒から単離したグニデイマクリンおよびステレラマクリンは、ともにダフナン系ジテルペンの骨格をもつ化合物で、前者は既知物質であるが、後者は新物質である。これらの化合物は強い制癌作用を持っており、マウス白血病P-388に対して、グニデイマクリンは0.02mg/kgで、79%の延命率を示し、ステレラマクリンは0.5mg/kgで70%の延命率を示した。また固形腫瘍のルイス肺癌、B-16メラノーマ、コロン26癌などに対しても40%以上の延命率を示した。グニデイマクリンは、細胞株によって異なるが、人癌細胞株に対してアドリヤマイシンの約100倍の活性を持っており、特にヒト胃癌、白血病細胞、非小細胞性肺癌に対して、強い活性を示す薬剤である。この制癌剤の作用機序は、核酸合成や蛋白合成を阻害するのではなかったので、細胞骨格に作用するのではないかと考えて実験を行なったところ、微小管蛋白質のアセンブリーを若干促進した。また僅かながらトポイソメラーゼに対しても阻害作用を示した。現在その作用機構については研究中である。本物質は、はじめは瑞香狼毒の根茎から分離したが、今回の研究によって瑞香狼毒Stellera chamaejasme L.の地上部、なかんずく葉部からも得られることが分かった。さらにグニデイマクリンは、ステレラマクリンから有機化学的方法によって誘導することができるので、近縁植物またはそのほか〈狼毒〉と一般に呼ばれている植物について検討した。瑞香狼毒は、今回の平成5年度の資源調査で、青海湖周辺の広大な地域で広く群生していることが分かり、中国科学院西北高原生物研究所の話によれば、1年に数トン単位で原料を採集することは可能であるということであった。さらに四川省南部高原地域に非常にたくさん野生しているという情報を四川省成都における調査で得ることができた。従って瑞香狼毒については、地上部を利用することができるので、医薬品資源として利用することができる可能性があると判断した。瑞香狼毒からは、グニデイマクリン、ステレラマクリン以外にいくつかの物質を単離しているので、それらについては抗ウイルス作用、特に抗エイズ作用などを検討している。またそのほかの植物については、制癌活性などの生理活性を検討している。平成5年9月から10月にかけて、中国側協同研究者、馮威健博士に来日してもらい、金沢大学において制癌試験などについて研究を行なうとともに、中国産高等植物について討論した。また平成6年2月には中国側協同研究者、巌述常先生に金沢に来てもらい、中国産の有用な植物について意見を交換し学術討論を行なった。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)