研究分担者 |
ABBATE M. ブラジル国立シンクロトロン研究所, 研究員
STEINER P. ザールランド大学, 主任研究員
CARRA P. ヨーロッパ放射光研究所, 研究員
VAN der Laan ダレスベリー研究所, 研究員
THOLE B.T. グロニンゲン大学, 研究員
PARIEBAS J.C CNRS(ルイ, パスツール大学), 主任研究員
SAWATZKY G.A グロニンゲン大学, 教授
田中 智 大阪府立大学, 工学部, 助手 (80236588)
岡田 耕三 山口大学, 教育学部, 助教授 (70194355)
辛 埴 東京大学, 物性研究所, 助教授 (00162785)
藤森 淳 東京大学, 理学部, 助教授 (10209108)
城 健男 広島大学, 理学部, 教授 (20093487)
LAAN G.van der Daresbury Laboratory, Researcher
SWATSUKI G.a. University of Groningen, Materials Science Center, Professor
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研究概要 |
本研究は、我国とヨーロッパの代表的な研究者が共同研究を推進し、理論と実験の両面から、X線光電子放出(XPS)・X線吸収(XAS)等の「高エネルギー分光」の研究を発展させることを目的として計画されている。 平成5年度は、小谷と岡田がグロニンゲン大学を、小谷がルイ・パスツール大学を訪問した。また、Tholeとvan der Laanが来日し東京大学と広島大学を訪問した。さらに、平成6年度は、小谷がルイ・パスツール大学を、城がグロニンゲン大学を訪問し、またAbbate,Steiner,Parlebasが東京大学を訪問した。 この機会に、小谷グループとSawatzky・Tholeグループは高エネルギー分光における多重項効果について共同研究を進展させた。この共同研究の主な成果は、重い希土類や遷移元素の浅い内殻のXPSの終状態において、オージェ緩和による寿命が著しい多重項依存性をもつことを見出したことである。この発見によって、従来から未解決のままであった希土類の4dXPSや遷移元素の3pXPSの解釈は一挙に解決されることになった。この成果の一部は希土類4dXPSの理論としてPhys.Rev.Bに公表された。また、この研究の延長として、XPSだけではなく、X線放出スペクトル(XES)においても寿命の多重項依存性が重要な役割を演じることがわかり、田中が中心になって理論計算を進めている。この効果をも含めて、XESの実験が辛を中心にして準備されていたが、最近になってXESの予備的な観測結果が得られるところまで研究は進展している。 小谷グループとParlebasグループは、従来から続けてきた「軽い遷移金属化合物の高エネルギー分光理論」および「CePd_7の高エネルギー分光」に関する共同研究を大きく前進させることが出来、その成果を国際シンポジウムで発表し、また学術雑誌に投稿した。TiO_2,Ti_2O_3,V_2O_3,Cr_2O_3等の軽い遷移金属の酸化物の電子状態は、これまでよく理解されていなかったが、我々は、XPSを中心とする高エネルギー分光の理論解析をクラスター模型を用いて系統的に実行し、これらの物質が従来の常識を越えた強い共有結合性をもつことを見出した。従来は、Ti_2O_3〜Cr_2O_3の第一イオン化状態の正孔は3d状態にあると言われてきたが、我々の研究から、3d状態と酸素の2p状態の間の強い混成状態にあることが明らかにされた。これらの成果の一部は、小谷が第17回谷口国際シンポジウムで口頭発表し、そのプロシ-ディングスがSpringer-VerlagからParlebasらとの共著論文として公表される予定である。また、この共同研究に関してParlebasが中心になって準備してきた別の共著論文も、J.Electron.Spectrosc.Relat.Phenom.に掲載されることが決定した。さらに、今回のSteinerの来日により、Steinerが中心になって観測した軽い遷移金属酸化物の新しい実験データが、XPSや電子エネルギー損失スペクトルに関してもたらされ、それらの理論解析が現在進行中である。 一方、小谷・Parlebas両グループは、異常に強い原子価混合を示す物質としてCePd_7にも関心を持ち、実験・理論の両面から共同研究を続けてきた。平成6年度はこの物質の表面効果について新しい結果を得たので共著論文としてまとめた。これは、CePd_7中のCeは表面とバルクで電子状態が異なり、表面では原子価混合が弱く、バルクは異常に強いことを明らかにしたもので、この論文もJ.Phys.C:Condensed Matterに掲載が決定している。 城は、今回のグロニンゲン大学訪問の機会に、Sawatzky・Tholeグループとの間で強磁性体のXASの円偏向磁気二色性についての研究・討論を行い、有意義な成果を得た。この方面の研究は、van der LaanやCarraが従来から進めている理論とも併せて、今後の大きな発展が期待できる。 藤森とAbbate,Sawatzkyらは共同でLaCoO_3のXASの精密測定を行い、温度変化によってCoのスピン状態が高スピンと低スピンの間で転移することを見出した。この研究は、今回のAbbateの来日によってさらに進展している。なお、この実験結果の一部は、バンド計算やクラスター計算による解析をも含めて、Phys.Rev.Bに公表された。
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