研究課題
国際学術研究
データ解析:これまでに収集した450GeV陽子ビームおよび核子あたり200GeV硫黄ビーム実験の生データの解析を完了した。粒子識別を明確にした1粒子スペクトルおよび2粒子干渉(HBT)効果による同種粒子相関関数(C_2)の詳しいふるまいを明らかにした。この結果つぎのような事実が明らかになった。(1)1粒子の横運動両(p_T)分布について、他グループがターゲット・ラピディティ近傍で見出した低いp_Tので異常増加は、中心ラピディティ近傍では顕著でなく、バリオン共鳴の効果として説明できる。(2)重陽子のp_Tスペクトルの解析より、コアレッセンス模型の妥当性を調べ、高エネルギーでもほぼ妥当であることを見出した。また反重陽子はその生成率が高いp_T値で相対的に大きくなることを見出した。(3)C_2のふるまいから、パイオンおよびK中間子の発生源拡り(いわゆるHBTパラメタ)が明らかになった。とくにHBTパラメタが横向き質量(m_T)の簡単な関数として表現されること、およびこのことから、流体力学模型の示唆する発生源の横方向拡張が存在することが実験的に明らかになった。(4)理論的には予想されていたが、未確認であった発生源からパイオンの析出時間の分布巾を世界ではじめて求めることに成功した。しかしこの巾は、QGP相転移から予想されるような大きなものではない。(5)パイオンとK中間子のHBTパラメタはm_Tの単一の関数で記述でき、したがって、パイオンとK中間子でHBTパラメタの値に差が出てくるのは、これら2粒子の質量差に基づくものであることがわかった。2.核子あたり160GeV鉛ビーム実験:既収集実験データの解析、装置の改良、新しいデータ収集。(1)高多重度環境下での粒子識別用チェレンコフ検出器(TIC)の開発をセルングループと共同して行い、別途科学研究費(一般A)にて購入の資材によりこれを完成し、本年度の鉛ビーム実験に供した。(2)H7年11月〜12月に、セルンにて、鉛ビームの本番実験を行い大量の生データを収集し、これを磁気媒体に複写して本学に持ち帰った。現在これらのデータ解析を全力を挙げて遂行中である。(3)上記解析のうち、これまでに得られた各種ハドロンの1粒子スペクトルより、ハドロン発生源の温度およびハドロン発生源の横向き膨張の存在とその速度が明らかとなった。(4)パイオン(π^+)の2粒子相関関数(C_2)を決定し、発生源サイズを求めた。これより、パイオンはその粒子密度がある臨海値まで下降したとき発生源より析出するものであることがわかった。3.国際シンポジウム(1)1995年4月に、本研究計画の中心的トピックである「高エネルギー原子核衝突における量子干渉効果」をテーマとした国際シンポジウムを広島市にて開催した。これは、現時点でのこの問題についての総括というだけでなく、QGPから宇宙構造にまで話題が及んだ予想以上に興味深い会議となった。(2)このシンポジウムに関して、内外の会議参加者より「つぎの会議も是非開催してくれ」との強い要望があった。なお、この会議のプロシ-ディングスは、「原子核研究」の一冊として発行される。4.今後の計画(1)鉛実験の生データ解析のうち、1粒子スペクトルについては今後負電荷のハドロンにまで範囲を拡げ、既知の正電荷ハドロン・データとあわせて温度や化学ポテンシャルについて定量的結論を得る。また、重陽子、反重陽子のデータをより精密化し、その生成機構を明らかにする。(2)2粒子相関関数については、パイオン、K中間子のデータの精密化をはかるとともに、陽子の2粒子相関にも解析を拡げ、これまで明らかではなかったパイオン発生源についての情報を得る。(3)最も発生率の多いパイオンについて、世界でもはじめての3粒子相関関数の決定に挑戦する。
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