研究課題
国際学術研究
本年度は研究計画の最終年度として、これまで2ヶ年の成果を踏まえ、スペクトロメーターに大幅に改良を加え、さらに精度の高い宇宙起源反粒子の探索を行った。具体的には粒子識別を行う粒子飛行時間測定器(TOF)の時間分解能の大幅な向上(300ps→100ps)によって粒子識別可能運動エネルギー範囲を500MeV→1000MeVへのアップグレードが可能となった。平成7年度のカナダでの気球飛翔実験は、この改善を踏まえて実施された。カナダ・マニトバ州北部のリンレークに、10名の派遣を行い、約1ヶ月の実験準備を経て、約24時間にわたる気球飛翔、科学観測実験に成功した。データ解析の結果、過去2年間の8イベントを大幅に上回る40を越える反陽子イベントを検出し、反陽子/陽子比として10^<-5>の有限価を得た(図1)。この観測結果は、宇宙線観測における、はじめての明確な粒子同定を行った低いエネルギー観測結果として、学会より高い評価を受けた。また平成5年度のデータ解析のまとめは平成7年にPhysical Review Letterにも掲載され、評価の高さが明確なものとなった。宇宙起源反粒子の候補となり得る反ヘリウム探索では、従来の観測感度を一ケタ以上、上回る反ヘリウム/ヘリウム 2×10^<-6>の上限値を得ている(図2)。以上の科学観測から、以下の実験結果が得られている。1、宇宙線反陽子のスペクトルは、いわゆるリ-キーボックス モデル(宇宙線が銀河間の飛行中の衝突によって生成される二次粒子としての反陽子)によって予想されるスペクトルにほぼ一致するが、低エネルギー領域に於いて、若干のずれが観測され、超対称性粒子の対消滅や初期ブラックホールの蒸発による低エネルギー反陽子の可能性が残されている2、宇宙起源反粒子候補となる反ヘリウムの探索では、〜10MPcレベルの宇宙距離の範囲内には、宇宙起源反粒子が存在する兆候は観測されなかった。さらに感度の高い観測は長期間のフライトによって可能となるが、今後の課題となる。まとめとして、本実験計画では、大立体角超伝導スペクトロメーターによって、従来に比べ、一ケタ以上の感度の高い観測を実現し、これまで観測されていなかった〜1GeV以下の低エネルギー領域で、はじめて明確な宇宙線反陽子の観測を行うとともに、反ヘリウム探索においては、従来の探索感度を一ケタ高めた探索を行う事に成功した。また本計画は、日本の素粒子実験技術とアメリカの大型科学観測気球実験技術を融合し、お互いの特質を相補的に活かした国際学術共同実験として大きな成果を収める事が出来た。
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