研究概要 |
1.山下は、平成5年10月14日から11月10日までマックス・ブランク研究所にて、Schinke博士とCH3SH分子の光解離反応の波束ダイナミックスについて共同研究を行った。電子基底、励起状態のポテンシャル面の量子化学計算と、非断熱遷移を考慮した波束計算により、CH3_+SH,CH3S_+Hへの2種の光解離反応チャネルの分岐比が、遷移状態領域での非断熱相互作用により制御されていることを明かとした。またSchinke博士は同研究継続のために平成6年2月27日から3月29日まで基礎化学研究所に滞在した。2.長岡は、Gaspard博士が平成5年夏に開催された国際会議「Quantum and Chaos」に出席の為京都を訪問した際に、当研究所にて予備的な共同研究と打ち合わせを行なった。その時の議論と問題となった研究課題を熟慮・考察した上で、平成5年10月19日から11月11日までブリュッセル自由大学Gaspard博士を訪問し、更なる議論と討論を重ねた。初めに問題となった古典論的手法と量子論的手法のどちらが妥当なのかという点は、世界的研究状況が「量子カオス」の定義と意味付けに注がれている現状を踏まえて、後者に主眼を置くべきと言う事になり、近年注目されて来た拡散過程の波動関数アプローチの適用可能性が詳しく調べられた。3.田崎は平成6年1月27日から2月23日までブリュッセル自由大学Gaspard博士を訪問し、非可積分学系の数理的手法を用い、可逆な力学モデル「多重パイこね変換」における拡散過程の研究を化学反応散逸過程の研究の予備段階として行なった。このモデルにおいて流れを伴う非平衡定常状態を構築しFickの法則に従う状態を見い出した。可逆な力学系においてこのような状態が見い出されたことは、微視的な散逸過程を解明するうえで重要な進展であると考えられる。
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