研究課題/領域番号 |
05044081
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西永 頌 東京大学, 工学部, 教授 (10023128)
|
研究分担者 |
CHERNOV A.A. ロシア共和国科学アカデミー, 結晶学研究所, 教授
DANILEWSKY A フライブルグ大学, 結晶学研究所, 助手
BENZ K.W. フライブルグ大学, 結晶学研究所, 教授
田中 雅明 東京大学, 工学部, 助教授 (30192636)
|
研究期間 (年度) |
1993 – 1994
|
キーワード | 結晶成長機構 / 微小重力 / 巨大ステップ / 溶液成長 / 半導体 / スペースラブ / InP / GaSb |
研究概要 |
微小重力下では熱対流が停止するのでマランゴニ流を抑制すれば完全に流れのない状態で結晶成長を行うことができる。本研究ではこの点を利用し、結晶成長時原子ステップが集合して形成される巨大ステップの形成機構を調べることにより、結晶成長機構を明かにすることを目的としている。 本年度は、昨年度に引き続きスペースラブD-2によりドイツ側で成長させたInPに形成されている巨大ステップに関し、その振舞を顕微鏡により調べた。次にヨーロッパの大型無人衛星ユ-リカにおいてドイツ側で成長されたSドープInP結晶に形成されている巨大ステップを同様に顕微鏡により調べた。次に空間分解フォトルミネッセンスを用いて巨大ステップの内外におけるSの分布を調べた。 Sの濃度の変化は低温でのバンド端発光のシフトを見ることにより与えられるのでこの変化を見ることにより巨大ステップに付随して形成される不純物不均一分布を知ることができる。この知識を用いることにより巨大ステップの形成機構を明かにするとともに成長機構を明かにすることができる。先ず、Sの分布であるが巨大ステップの段部とテラス部で濃度が異なっておりテラス部では多く段部で少なくドープされている。これは、テラス部ではステップ移動が早く不純物を多く取り込むのに対し段部ではステップがゆっくり移動するので不純物を排除しながら成長することによる。微小重力下では熱対流が消失しかつ自由表面をのぞくことによりマランゴニ流も抑制することができるので完全に流れのない状況で成長が行われる。したがって成長は純粋に拡散律連下で行われることになるので、成長機構を明かにする上では理想的な場となる。 先ず、巨大ステップの形成・消滅過程を調べた。それによると巨大ステップは成長の初期に形成されるがある所で消滅する。この生成・消滅は成長速度と強い関係を持ち、成長速度が早い所で現れ成長速度が遅くなると消える様子が成長結晶の顕微鏡観察から明かになった。又、同様の結果が地上で成長時磁場を加えることによって起こることが発見された。成長法は宇宙で行ったのと同じヒーター移送法(Travelling Heater Method,THM)でそこに静磁場を加えるものである。磁場を加えると流れが静止するので温度変化が起こり成長速度が変化する。この部分の断面を顕微鏡観察すると成長速度の大小に対応し巨大ステップが発生消滅する様子が明瞭に見られた。従って巨大ステップの形成は成長速度に大きく依存する。一方、消滅には成長面に垂直方向の温度勾配が重要であることもわかった。この温度勾配を大きくすることにより巨大ステップはより容易に消滅する。 以上の観察結果を理解するため理論的検討を行った。微小重力下では自由表面をなくすことによりすべての流れが停止するので理論と実験の比較が非常にやりやすくなる。溶液側で流れが全く無いとすると溶質は濃度拡散によってのみ成長面に運ばれる。そこで溶質の拡散場を巨大ステップを境界とする二次拡散方程式を温度勾配下で解くことにより求めた。それによると、温度勾配を大きくするにつれて巨大ステップの上、下の角における濃度差が次第に小さくなり巨大ステップを維持する力が弱くなることがわかった。このため巨大ステップにおけるテラスと段部のなす角は次第に小さくなりついに巨大ステップは消滅する。しかし、この角が小さくなると拡散方程式の解が求めにくくなり完全に消滅する過程までは理論的に明かにすることは出来なかった。これは今後の問題として残されている。 次に水溶液における巨大ステップの形成・消滅につき研究を行った。この研究はロシアの結晶学研究所チェルノフ教授のグループとの共同研究により行ったものである。物質はKDPおよびADPといったものでこれを水溶液から成長させると成長丘が形成される。この成長丘は微傾斜面により囲まれておりそこには条件によって巨大ステップが形成される。ところがこの成長丘上において溶媒に流れが起こると流れに対し成長丘の両側で巨大ステップの形成に非対称性があらわれる。これは巨大ステップの発生により成長表面近傍の溶液に溶質濃度の不均一が起こることに関係し不均一分布が流れにより巨大ステップに対しどの方向に動くかによって非対称が出現することが判明した。この考えはInPの巨大ステップの形成・消滅と同じであり物質によらず巨大ステップの形成・消滅を支配しているのは成長形態と拡散場の相互作用に基づくものであることが明かとなった。
|