研究課題
国際学術研究
本研究は、河川の水質検査用ガスセンシングシステムとして複数のガスセンサと人工神経回路網を組み合わせて酸素、アンモニア及び硫化水素を測定するシステムを開発することを目的とする。以下のような項目について研究を行った。(1)センサの製作と検討使用するセンサは半導体ガスセンサと電気化学ガスセンサを試みた。タイ側は薄膜型半導体ガスセンサを試作し、センサの選択性を高めるためにCaOまたはAlのド-ピングを試みた。作製したセンサはアンモニア、アルコール、アセトアルデヒドに応答することが分かった。また水中の溶存酸素を測定するための溶存酸素センサを試作した。試作したセンサは薄膜型とバルク型の2種類である。薄膜型酸素センサは小型で安価のため「使い捨て」のような使用法に適するが、長時間の繰り返し測定には適さないことが分った。一方バルク型酸素センサは大型であるが、頑丈で、繰り返し使用および現場使用に適している事が分った。試作したセンサの他に市販の半導体ガスセンサと電気化学ガスセンサの検討も行った。その結果、市販の電気化学ガスセンサは選択性が高いが、測定法、およびシステム構成を考慮すると本研究のシステムに適していないと結論された。半導体ガスセンサは市販の800、813、824型(フィガロ社)を使用して実験を行った。結論として酸素濃度は試作酸素センサで測定でき、アンモニアと硫化水素は市販の半導体ガスセンサで測定できることが分った。(2)測定システムの構成測定システムの構成に関しては、大きく分けて溶液タイプとガスタイプのシステムを試みた。溶液タイプとはサンプルを溶液の状態で測定するもので、ガスタイプとはサンプル溶液を蒸発させ、ガスの状態で測定するものである。日本側は溶液タイプのシステムを試作した。作製したシステムはディップ式でセンサ部をサンプル溶液に浸たして測定するものである。標準サンプルを測定したところ応答時間は約2、3分で、測定下限は3ppmであった。一方タイ側は溶液タイプとガスタイプを試み、両者ともフロー方式を採用した。測定系はサンプル注入部を設けて、注入したサンプルを純水(溶液タイプ)または酸素と窒素の混合ガス(ガスタイプ)でセンサ部まで運び測定する。溶液タイプは応答時間が3〜5分で、測定限界がアンモニア及び硫化水素に対して約100ppmであった。応答時間を短縮するために、ガスタイプのフロー方式に変えた。このシステムは、サンプル注入部に加熱装置を設け、注入したサンプルを蒸発させガス状態に変えセンサで測定する。サンプル注入量が10μlのとき応答時間は30秒に短縮することができたが、アンモニアと硫化水素測定下限は100ppmであった。(3)ガス種認識アルゴリズムガスセンサの選択性が悪いため、複数種のセンサ出力より識別アルゴリズムによってガス種を認識した。日本側は、人工神経回路網(ニューラルネットワーク)の誤差逆伝搬方式を作り、アンモニア及び硫化水素の濃度を判別できるように混合標準溶液の測定データを学習させた。アンモニアと硫化水素の混合サンプルを測定したところ、硫化水素の判定誤差は約2ppm、アンモニアの判定誤差は2〜25ppmで(1〜100ppmの測定範囲)であることが分かった。(4)河川水質測定以上の測定システムでタイのチャオプラヤ川(メナム川)の水質を測定してみた。システムの電源等の問題があったため、現場でリアルタイム測定はできなかった。川のサンプルを採集し実験室で測定したが、アンモニア、硫化水素共に検出できなかった。この測定と並行して水質分析装置を利用して水質の評価を行ったところアンモニア濃度は約1〜2ppmで、硫化水素は1ppm以下であった。分析装置が正しいとすればサンプル中のアンモニアと硫化水素の濃度は本研究のシステムの測定限界以下であるため、検出できなかったと考えられる。以上、本研究で開発した水質検査システムは溶存酸素、アンモニア及び硫化水素濃度を下限3ppmまで測定可能である。これ以下の濃度(100ppbオーダー)を測定するには測定系の改良を必要とする。例えば、ディップ方式の隔膜の特徴とフロー方式の安定性を生かし両方式の一体化により、充分実現できると考えられる。
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