研究課題
英国側グループは、一応10ナノ秒のパルス幅のヒートパルスを用いて、二次元電子ガスによるヒートパルスの散乱や直接二次元電子ガスにパルス電流を流すことによって発生する熱フォノンを観測するシステムを完成させている。しかし本研究においては、空間分解能を更に高くする必要があるために、可能な限り波長を短くし、より狭い幅のヒートパルスを用い、それを応答の早い超伝導ボロメータによって検出する必要があり、しかもこのためのヒーター(フォノンジェネレータ)とボロメータ(フォノンレシーバー)のサイズも、可能な限り微細に作る必要がある。このような条件を満たすために、多くの問題点を克服する必要があった。例えば、短い波長のフォノンを発生させるにはパルス電流を大きくする必要があり、かつパルス幅を狭くすると、電流と電流の時間微分が大きくなり、その結果リンギングやレシーバーへの誘導などが大きくなるので、試料につけるヒ-タ、ボロメータ、電極等の設計や配置・加工(これは九州工業大学のマイクロ化総合技術センターで行なった)、クライオスタットの構造等に、多くの詳細な検討・改良とその実験を行い、殆どの問題を解決した。また、このような研究実績に基づき、研究の進行を早めデータの蓄積を高めかつ効率的に共同研究を行なう目的で、九州工業大学側でも測定装置の組立を開始した。次に九州工業大学側で、Si/SiGe系のMBE膜の作製装置の組立を行い、まずSi基板上にSiGe膜をエピタキシャル成長させ、基板SiとSiGe膜の格子定数の違いによる格子歪みを、ラマン分光によって測定し、膜厚やSiとGeの組成比、作製条件、熱処理等と格子歪みの関係を明らかにすることが出来ることがわかった。このようなデータとヒートパルスの結果を比較することによって、格子歪みとヒートパルス散乱やモード変換の関係を明らかに出来る目処がついたと共に多層膜について調べる手掛かりを得た。