研究概要 |
殺虫性タンパク質(ICP)を産生するBacillus thuringiensis(BT)は、ICPの特異的な殺虫活性により広く微生物農薬として利用されており、近年多くの新しい性質を有しているBT菌株が数多く世界各国の土壌より分離されている。 本研究では、従来のBTの生態を考慮し、土壌温度が好適で、湿度が保たれ、さらに昆虫種のバラエテイに富んでいる熱帯雨林の土壌をターゲットとしてインドネシア・ジャワ島各地の土壌からBTの分離を試みた。共同研究者である、ボゴール農科大学のDr.Bibianaによれば、インドネシアの土壌からは日本、アメリカならびにヨーロッパ各地の土壌より高頻度でBTが分離されることが報告されており、昨年度の調査による多くのBT分離株を得た。今年度は、昨年度の調査において多くのBT分離株が得られたような地点(大きな樹木が有る場所)と、よくBTが分離されることが報告されている桑園の土壌ならびに桑葉・蚕の糞からBTの分離を試みた。その結果、インドネシアジャワ島において約50地点の土壌・蚕室の残さ等をサンプリングし、30株以上のBT菌株を得た。これらの菌株については、H-serotypeによる同定を行った。その結果,亜種thuringiensis,alesti,sumiyoshiensis,sotto,darmstadiensis,aizawai等、さらに同定できないような新しいBT菌株も存在していた。現在引き続き分離ならびに分離株のcry遺伝子の同定、鱗翅目昆虫(カイコ、コナガ、ハスモンヨトウ)ならびに鞘翅目昆虫(ウリハムシ、ニジュウヤホシテントウ)に対する殺虫活性検定を行っている。 昨年の共同研究ですでに、60株程度の分離菌株を得、それらの菌株についてはH-serotypeによる同定ならびに独自に開発したPCR法を用いたcry遺伝子同定法によりcryI・cryII・cryIII・cryIV・cryV遺伝子について調査を行った。これらの昨年の研究で得られたBT菌株の殺虫活性について、カイコ・コナガ・ハスモンヨトウ・ウリハムシ・ニジュウヤホシテントウについての殺虫活性検定を行った。 その結果、コナガならびにハスモンヨトウに対して強い殺虫活性を示す菌株が数株得られた。これらの菌株は、H-serotypeによる同定により亜種kurstakiに分類された。しかしながら、kurstakiに同定される菌株では従来ハスモンヨトウに対する殺虫活性は報告されておらず、今までにない新しいBT菌株であることが明らかとなった。それらの菌株の内、INA02菌株についてはハスモンヨトウに対して殺虫活性を示すcryVに分類される遺伝子のクローニングならびに遺伝子構造解析を行った。 亜種sottoに同定された菌株の中に、これまでに報告のない双翅目昆虫(ヤマトヤブカ)殺虫活性を示すような新しいタイプの株が存在していた。この菌株(SKW株)の羽翅目昆虫に対する殺虫活性を示すICP遺伝子の同定を試みた。その結果、この菌株はcryIIに分類される遺伝子が同定された。このcryII遺伝子についてはクローニングならびに遺伝子構造解析を行った結果、cryIIA遺伝子に類似した遺伝子であった。この遺伝子については、今後このSKW株のcryII遺伝子の持つ活性について本来のcryII遺伝子との殺虫活性判定との比較を鱗翅目ならびに鞘翅目昆虫に対して詳細に調査するつもりである。また、亜種tenebrionisに同定されたINA67菌株は、鞘翅目昆虫(ニジュウヤホシテントウ)に対する殺虫活性を有する分離株で、従来、鞘翅目昆虫に対して活性が報告されているcryIII・V両遺伝子は同定されず、現在この株のcryI遺伝子のクローニングならびに構造解析によりcryIBならびにcryIE遺伝子の存在が確認され、これらの遺伝子の殺虫活性について今後さらに検討する必要があると考えられた。このようにインドネシアの土壌からはまだ数多くの未知なるBT菌株の分離されることが予想され更なる詳細な調査を行う。
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