シロアリ-共生者システム 熱帯陸上生物群集における作用機構

1994 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 05044129
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 阿部 琢哉 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (00045030)
• 研究分担者: KIRTIBUTR Ni タイ, カセサート大学, 助教授 ; MYLES Timoth カナダ, Toronto大学, 助教授 ; BURNS Thomas 米, OakRidge国立研, 研究員 ; BIGNELL D.E. 英, London大学, 教授 ; SLAYTOR M. 豪, Sydney大学, 助教授 ; HOLT Jhon 豪, CSIRO, 主任教授 ; 杉本 敦子 京都大学, 生態学研究センター, 助手 (50235892) ; 東 正彦 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40183917) ; 武田 博清 京都大学, 農学部, 助教授 (60109048) ; 山村 則男 佐賀医科大学, 助教授 (70124815) ; 山岡 亮平 京都工芸繊維大学, 繊維学, 教授 (00111948) ; 山岡 郁雄 山口大学, 理学部, 教授 (30034705) ; 松本 忠夫 東京大学, 教養学部, 教授 (90106609) ; SLAYTOR Michael Department of Biochemistry, The University of Sydney, Australia, Associate Profe ; HOLT John a. Senior Scientist CSIRO,Division of Soils, Australia
• 研究期間 (年度): 1993 – 1994
• キーワード: シロアリ-共生者システム / セルロース分解 / C / Nバランス / 窒素固定 / 大進化

研究概要

1)シロアリ-共生者系における種間相互作用
(a)シロアリの消化管内に共生するバクテリアによる窒素固定能
日本、タイ、オーストラリア、カメルーンに分布するシロアリにおける空中窒素固定能を、窒素の安定同位体比を用いて調べた。コウシュンシロアリのように下等シロアリで材を食べるものでは、体を構成する窒素成分の少なくても30-50%が空中窒素起源であるが、オーストラリアに分布しイネ科枯死植物を食べるものやカメルーンに分布し、ヒューマスなどを食べる高等シロアリでは空中窒素依存度が低いことを明らかにした。
(b)シロアリ-微生物共生系におけるセルロース分解機構
植物遺体に含まれ、また世界でもっとも多量に依存する有機物であるセルロースを、下等シロアリでは後腸に共生する原生動物とシロアリ自身が唾液線と中腸で作るセルラーゼの両方で分解するのに対して、共生原生動物を持たない高等シロアリ例えばキノコシロアリでは自分が唾液線や中腸で作るセルラーゼによって分解することを酵素化学的な手法を用いて明らかにした。琉球列島に分布するニトベシロアリのようにヒューマスを食べるシロアリではシロアリ自身のセルラーゼ活性も著しく低下していることも明らかにした。また下等シロアリであるヤマトシロアリにおいて、材のおよそ25%を占めるヘミセルロースの主成分であるキシランが、後腸の共生原生動物と、シロアリが唾液線と中腸で作りだす分解酵素によって分解されることを明らかにした。さらに、ヤマトシロアリでは後腸の共生原生動物11種全部がセルロースの分解に関与するが、キシランの分解に関与するのはその一部であることを明らかにした。
(c)シロアリによるメタン生成
日本とタイに分布するシロアリのメタン生成量を炭酸ガスの生成量と合わせて測定し、カースト、食性、系統分類群による違いを検討し、王、女王、幼虫などのように食物を他のカーストに依存するものはメタンの生成量が少ないことなどを明らかにした。
2)シロアリ-共生者系の進化
(a)下等シロアリから高等シロアリへの大進化を促進した要因
中生代白亜紀の森林のレリックと見做しうるオーストラリアの多雨林とそれに隣接するユ-カリの森林及びサバンナにおけるシロアリの種組成、食性、営巣行動を比較することにより、下等シロアリから高等シロアリへの大進化に関わる要因を探った。熱帯林では原始的な下等シロアリであるオオシロアリ科が、それに続くユ-カリの森林では進化の進んだ下等シロアリであるミゾガシラシロアリ科が優占し、それに続くサバンナでは高等シロアリが優占すると共に、見事な適応放散を遂げていた。オオシロアリ科は材の中で生活史を完了させるのに対し、ミゾガシラシロアリ科は材の中の巣から他の材に至る地下道を作りそれを食べ、高等シロアリは主に地中に営巣し、材だけでなく、多様な植物遺体を食物としていた。また多雨林からユ-カリの森林やサバンナにかけて、林床の材の現存量が減少し、野火が顕著に増加した。これらのことに基づき、気候の乾燥化とそれに伴う植生の変化及び野火の多発化が、シロアリに営巣場所を材の中から地中へ移すことを促進し、これが引き金となってヒューマスなどようにセルロースがリグニンと多少とも分離したものを食べる性質が進化し、これがシロアリ自身によるセルラーゼの生産、つまり下等シロアリから高等シロアリへの大進化を促進したとの「リグニン-カバー仮説」を提出した。
(b)シロアリの系統進化とシロアリ-微生物共生系
ミクロなレベルで日本列島における下等シロアリの地理分布と共生原生動物相を比較することによって、琉球列島に分布するシロアリの特異性を明らかにすると共に、シロアリの系統進化とセルラーゼ生産過程についての分子生物学的アプローチを地理分布分布と結びつける研究を推進する準備を整えた。
3)シロアリ-共生者系の生態系へのインパクト
シロアリ-微生物共生系によって窒素固定の回路が、熱帯の陸上生態系における窒素循環において無視できるものでないことを明らかにすると共に、シロアリの捕食者であるアリが窒素循環において重要な役割を果たすことを示唆した。また森林における植物遺体の分解過程におけるシロアリと菌類の役割について検討した。

研究成果

• [文献書誌] Tayasu,I.Sugimoto,A.Wada,E & Abe,T.: "Xylophagous termitis depencling on atmospherie nutrigen" Natunwissenchaften. 81. 229-231 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Higashi,M.& Yamamura,N: "Resolution of evolutionary conflict" Researches on Population Ecology. 36. 15-22 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Tsuji N.& Yamamura,N.: "A mathematical modelon wing dimorphinm in male Cardiocondyla ants" J.Ethology. 12. 19-24 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Takora,M.,Takahashi,M.& Yamaoka,R.: "(2.E.E)-Dudecatrien-1 ol;A minor Component of trail pherimcne of termite" J.Chemical Ecology. 20. 199-215 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Shinzato,N.,Yamagishi,A.,Oshima,T.& Yamaoka,I.: "16srRNA seguences of methanogemic symbeant in termite" Zoologial Science. 11. 15-22 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Takeda,H.: "A 5 year study of lieten decomposi the in chomcy apin ohtuse forest" Ecological Research. 10(in press). (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Abe,T.: "Structure and function of soil communition" Kyoto Univ Press (in press), (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 高林純示,西田律夫,山岡亮平: "共進化の謎に迫る" 平凡社, 300 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 山岡亮平: "アリはなぜ一列に歩くか" 大修館書店, 194 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Tayasu I., Sugimoto, A., Wada, E.& Abe, T.: "Xylophagous termites depending on atmospheric mitrogen" Naturwissenschaften. 81. 229-231 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Higashi, M & Yamamura, N.: "Resolution of evolutionary conflict" Researches on Population Ecology. 36. 15-22 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Tsuji N.& Yamamura, N.: "A mathematical model on wing dimorphism in male Cardiacondyla ants" J.Ethology. 12. 19-24 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Tokoro, M.Takahashi, M.& Yamaoka, R.: "(Z.E,E J-Dodecatrien-1-ol) A minor componant of trail pheromone of termite" J.Chemical Ecology. 20. 199-215 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Shinzato, N,Yanagishi, A., Oshima, T.& Yamaoka, I.: "16S rRNA seguences of methanogenie symbiont in termite" Zool.Sii.11. 15-22 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Takeda, H.: "A 5 year study of litter decemposition process in chomse cyaprin obtuse forest" Ecological Resarch. 10(in press). (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Abe, T.: Kyoto Univ.Press. Structwe and fanction of soil comunities, (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yamaoka, R.: Heibonsha. Coevolution-ecosystem from Chemistry (in Japanese), 103-198 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yamaoka, R.: Drshir kan. Why are ants walking strant? (in Japanese), 1-194 (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より