研究課題/領域番号 |
05044143
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
生田 和良 北海道大学, 免疫科学研究所, 教授 (60127181)
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研究分担者 |
藤井 陽一 名古屋大学, 医学部・付属動物実験施設, 助手 (50165346)
JONES Ian M. Natural Environment Research Council, Ins, Project Le
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研究期間 (年度) |
1993 – 1994
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キーワード | HIV-1 / AIDS / nef / T細胞 / 持続感染 / ウイルス活性化 / 単クローン抗体 / 遺伝子変異 |
研究概要 |
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、レトロウイルス科、レンチウイルス亜科に属するウイルスで、感染した細胞を破壊することが特徴である。しかし、HIVに感染した体内では、急性感染期に複製されたウイルスが免疫原となり、高い抗HIV免疫応答が誘導される。特に、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の応答により急性期のHIV複製は抑えられ、液性免疫はその後に上昇することが明らかにされ、細胞性免疫の重要性が指摘された。しかし、この免疫応答後もウイルスはわずかながら潜在し続け、約10年後にはエイズを発症せしめる。一般に、エイズ発症前には、生体の免疫応答、特に細胞性免疫の低下が見られる。これらの事実は、細胞性免疫を維持もしくは誘導を期待できるワクチンが開発できれば、エイズ発症を抑さえることも不可能ではないと考えられる。特に、HIVの潜在様式すなわち持続感染細胞を排除できるCTL誘導ワクチンの開発が重要と考えられる。この為には、ワクチン開発の前提として先ず、そのターゲットであるHIV持続感染細胞の産生機序およびその性状を的確に把握する必要がある。 HIVには、3つのウイルス主要粒子構造蛋白質遺伝子(gag、pol、env)、2つの正に働く転写調節遺伝子(tat、rev)に加えて、4つのアクセサリー遺伝子(vif、vpr、vpu、nef)が存在する。一般に、HIV感染キャリア内に誘導され、ウイルス伝播を抑えていると考えられる抗HIV細胞性免疫は、主にHIVのGag、Pol、Env、Nef蛋白質に対するものであることが報告されている。 HIVのアクセサリー遺伝子産物の機能は、ウイルス複製時には特にとの必要性が認められない。しかし、エイズを引き起こすレトロウイルスにのみ存在することから、複雑なエイズ病態の進行に関わると考えられている。米国のグループにより始めて、アクセサリー遺伝子のひとつ、nefが、エイズ発症に必須の遺伝子であることが、サル免疫不全ウイルス-サルの系で証明された。私達は、nef意外のアクセサリー遺伝子、vif、vpr、もしくはvpuの変異が、細胞傷害性の低下を招き、結果的には持続感染細胞を産生させることを見いだした。この変異は、nef遺伝子の存在下でのみ誘導された。言い換えれば、nef遺伝子産物は持続感染する上で必須の何らかの機能を持つ蛋白質であることを示唆する結果が得られた。 そこで、本研究では、我が国と英国からのHIV分離株からのnef遺伝子をクローニングし、その発現産物の普遍的な機能を探ることを目的とした。今迄の解析で、HIVのnef遺伝子は従来考えられていた程保存性はないこと、また、HIVキャリアの末梢血単核球細胞(PBMC)からのウイルス分離時にCD8陽性のCTLを除去するか否かで、その分離ウイルスのnef遺伝子構造に違いのある傾向が明らかになった。この結果は、Nef蛋白質は、PBMC中に潜伏しているウイルスの良いターゲットとなっており、Nefに対してもEnvと同様エスケイプ株が出現していることを物語っている。また、Nef蛋白質の機能として、CD4のdown-regulationに関与すること、増殖速度を正に調節していることなどが報告されているが、私達は上記のように持続感染に関与することを明らかにしたことに加えて、持続感染細胞の細胞表面にも発現していること、一部のCD4陽性リンパ球の表面に結合しその増殖抑制に関与していること、この結合にはNefのカルボキシ末端領域が関与すること、また新たに樹立したHIV潜伏感染細胞からのHIVの活性化にNef蛋白質が関与すること、などを明らかにした。これらの知見に基づいて、Nefの憎悪領域以外で、BALB/cにCTLを誘導し得るエピトープワクチン(合成ペプチドをアジュバントと共に免疫)開発の候補領域を3カ所に絞り込んだ。今後、持続性を考慮し、組み換えBCG(私達は先にEnv領域での発現、CTL誘導能について既に報告しており、方法論は確立している)を作製中である。
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