研究課題
国際学術研究
本研究の中国の共同研究者であるWang教授らは、1988年急性前骨髄球性白血病(APL)が活性型ビタミンA all-trans retinoic acid (ATRA)により高率の完全寛解に到達することを世界で始めて報告した。Wang教授よりATRAの供給を受けた我々も1990年以来化学療法難反応性の日本人APL患者にATRAを使用し、80%以上の完全寛解が得られることを確認し、分化誘導療法がガン治療の一手段となることを明らかにした。さらに、ATRAを含む導入療法で完全寛解となった患者に寛解後療法として化学療法を施行することにより、化学療法のみで治療したAPL患者の予後よりも有意に良好であることを見出し、ガン治療法としての分化誘導療法の重要性を明らかにすると共に、初回治療APLの60%以上が治癒できるようになってきたことを示した。一方、ATRAに対する耐性は比較的容易に誘導されることが判り、ATRAで完全寛解となった患者が再発した場合、ATRAによる再完全寛解導入率は20%以下しかないことも判明した。そのため、再発症例に対する対策も、この共同研究の重要課題の一つに浮上してきた。本研究は、多数の症例を持つ上海グループと、日本ではこの分野の研究が最も進んでいる我々のグループと共同研究を行うことにより、APLにATRAが有効であるメカニズムの解明ならびに最近問題となってきたATRA耐性APLの耐性機構とその克服法を研究しつつ、分化誘導療法の他のガンへの応用の道を開くのを目的として、平成5年度より継続されている。本年度の成果としては、1)昨年日本側が作成し、直ちに中国側に供与した抗PML抗体を使用しての中国側の研究成績がまとまり、抗体の作成者である本共同研究の日本側の共同研究者の一人を共著者に含めてLeukemiaに掲載された。2)日本側2名が上海第二医科大学および北京がんセンターを訪問して、APL患者から白血病細胞を採取し、日本に持ち帰ってからRARαおよびPML遺伝子再構築、PML-RARαキメラ遺伝子等を検索した。結果的には、日本人症例も中国人症例も同一の遺伝子異常を示し、両方の症例を一緒にしての多数症例によるメタアナリシスが可能であることが確認できた。3)日本側2名が上海第二医科大学を訪問した際、以前よりハルピン医科大学から、APLに有効性を示すと報告されている漢方薬『癌瘍1号-713』で治療されているATRA抵抗性のAPL日本人患者を診察した。検査所見を閲覧し、骨髄および末梢血液像を顕微鏡で観察した結果、確かに本剤もATRAとよく似た機序により、APL細胞を分化誘導して完全寛解に導いていることを確認した。4)本薬の主要有効成分はAs_2O_3であることが確認されており、すでに上海第二医科大学でも10数数のAPLにこの漢方薬を使用してその有効性を確認している。そこで、我々も帰国後、As_2O_3をNB-4細胞のATRA耐性株およびATRA抵抗性の患者APL細胞で、in vitroの分化誘導効果を検討した所、ATRAほどの強い分化誘導作用は見られなかったものの、細胞にはアポトーシス所見を一部認めつつも、確かに分化・成熟している細胞があり、ATRAとは別の機作による分化誘導の可能性が考えられた。5)中国側2名を招聘し、これまで蓄積されたデータを基に、症例の臨床症状・予後等と遺伝子検査の結果を照合しつつ、検討したが、人種別の特徴的な違いは見い出されず、メタアナリシスが可能であることを相互に確認した。本成果は共同研究の形で論文化を計ることとし、今後も共同研究を継続することに意見の一致をみた。6)日本で開発された新レチノイドAm-80はATRA抵抗性のAPLに対し50%以上の完全寛解率が得られているが、要望に応じて本剤を中国側にも供給し、作用機作を中心に検討を開始することにした。7)我々も中国側から学ぶ事が多かったが、中国側も我々から学んだ事が多かったと言っており、是非、関連研究課題での共同研究の継続を希望していた。
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