研究概要 |
1) 電位依存性カルシウムチャンネルは,4つの相同性を有する繰り返し単位(リピート)からなり,それぞれのリピートには6つの膜貫通領域があると推定されている.これまでの研究で,お互いに類似の心筋カルシウムチャンネルと骨格筋カルシウムチャンネルの活性化速度の違いは,リピートIのアミノ酸配列の違いによることが明らかにされていた.活性化速度の差異がリピートIのどの部分に由来するかをさらに詳細に検討するために,リピートIのある部分が心筋カルシウムチャンネルに由来し,リピートIの残りの部分が骨格筋カルシウムチャンネルに由来するキメラカルシウムチャンネルを系統的に作製した.キメラcDNAをmuscular dysgenesisマウス由来の培養骨格筋細胞に注入して発現させ,電気生理学的にキメラチャンネルの活性化速度を求めた. その結果リピートIの第3推定膜貫通領域(S3)とS3とS4を結ぶ部分(S3-S4linker)が活性化速度の差異にかかわることが明らかとなった.S4は電位センサーと想定されていることを考えあわせると,膜電位の変化に伴うS4の変化が,本研究で明らかにされたS3及びその周辺に伝えられ,最終的にチャンネルの開口につながるものと考えられる. カルシウムチャンネルは主要部分を形作るαサブユニットと,その他の小サブユニットより構成されている.小サブユニットをαサブユニットに合わせて発現されると,カルシウムチャンネルの活性が増大することが知られているが,その機序は知られていない.このため,心筋カルシウムチャンネルを,単独あるいは小サブユニットと同時にCHO細胞に発現させ,RNAブロッティング,蛋白ゲル,ジヒドロピリジン結合能,電気生理学的解析を行って,小サブユニットの働きを検討した.その結果,小サブユニットはαサブユニットのRNA量・蛋白量に変化を与えることはなかった.小サブユニットはカルシウムチャンネルとして機能するために必要なコンフォーメションをとるために必要であると結論した. 興奮収縮連関に関与するリピートIIとリピートIIIを結ぶ部分については,さらに詳細に検討中である. ナトリウムチャンネル・カルシウムチャンネルのイオン選択機構に関しては,さらに多くの実験データを得,現在それらを解析検討中である.とくにナトリウムチャンネルには不活性化を抑制する変異を同時に導入することにより,実験の精度を向上させることが可能であった.2) ウサギ脳を材料として用い,新たなカルシウムチャンネルαサブユニットのcDNAクローニングを行い,その塩基配列を決定することにより,本チャンネルの全一次構造を明らかにした.この脳カルシウムチャンネル(BIIIと命名)は2,339個のアミノ酸残基よりなり,計算による分子量は261kDaであった.本カルシウムチャンネルは他のカルシウムチャンネルと相同性を有している.とくに脳カルシウムチャンネルであるBI,BIIとの相同性が高く,これら3つのカルシウムチャンネルで,ジヒドロピリジン感受性Lタイプカルシウムチャンネルとは異なったサブグループを形成すると考えられた. cDANより,発現プラスミドを作製し,muscular dysgenesisのマウス由来の培養骨格筋細胞に注入することにより,BIIIカルシウムチャンネルを発現させた.発現したカルシウムチャンネルはω-コノトキシンに感受性であり,従来Nタイプとして報告されて来たカルシウムチャンネルと類似の開閉と電位依存性を示した.また単一チャンネルコンダクタンスは14.3pSであった.Nタイプのカルシウムチャンネルは神経伝達物質放出に大きくかかわっていると考えられており,NタイプカルシウムチャンネルのcDNAクローニングは,今後の脳科学の発展に大きく寄与すると考えられる.
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