研究分担者 |
RADEKE H.H. ハノーバー医科大学, 上級研究員
VERHOEVEN AJ オランダ赤十字中央研究所, 研究員
JONES O.T.G. ブリストル大学, 医学部, 教授
熊取 厚志 長崎大学, 熱帯医学研究所, 講師 (60244092)
小坂 光男 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (30079983)
板倉 英よ 長崎大学, 熱帯医学研究所, 教授 (00010512)
OTG Jones Bristol University (Great Britain)
HH Radeke Hannover Medical College (Germany)
AJ Verhoeven Central Laboratory of the Netherlands Red Cross Transfusion Service
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研究概要 |
1.食細胞間における活性酸素産生系の違いとその機構の解析:活性酸素を積極的に産生する系は,骨髄系およびBリンパ球である.この産生系には4つの必須な構成要素すなわち,gp91-phox,p22-phox,p47-phox,p67-phoxが知られている.これらの構成成分のいづれかを欠損するために重篤な感染症を繰り返す慢性肉芽腫症の患者の細胞を解析すると,国内のこれまで検索した全ての症例およびヨーロッパのすべての症例において,骨髄系細胞即ち好中球,好酸球,単球では全く同じ表現型が認められた.このことから,これらの細胞では,それぞれの構成成分に対する同一遺伝子よりそれぞれ同一産物が発現されていると考えられた.しかしながら,研究代表者らが検索した62才男性gp91-phox異常型"バリアント"慢性肉芽腫症患者1例において,シトクロムb558に細胞外から特異的に結合する7D5モノクローナル抗体を用いて顆粒球を染色しフローサイトメーターで調べたところ,その一部は全く正常にこれを発現していた.これを発現している顆粒球は細胞化学的な検索から好酸球であり,好酸球だけが活性酸素産生能を有し,しかも正常レベルの活性を示した.従ってgp91-phoxmRNAの有無と活性およびシトクロムb558の有無とはよく相関していた.この解析結果は従来予想しなかった少なくとも以下の2つのことを示している. (1)gp91-phox遺伝子の発現はこれら骨髄系細胞の中でも異なっており,それには以下の可能性がある.(イ)遺伝子が複数ある.(ロ)スプライシングが細胞種によって異なっており,他の細胞と違って特定のエクソン好酸球においては用いられない.(ハ)好酸球以外ではgp91-phoxのmRNAの寿命が極端に短い.(ニ)単一遺伝子であるが,これを発現している細胞であってもその発現制御が異なる.好酸球のcDNAライブラリーから数個のgp91-phoxcDNAをクローニングしてその塩基配列をすべて決めたが,mRNAのコ-デイング配列は単一と考えて差しつかえなかった.患者単核球のgp91-phoxのmRNAの塩基配列をRT-PCRで調べたが異常は認められなかった.患者ゲノムのgp91-phox遺伝子の13エクソンおよびポリ(A)シグナル領域にも異常はなかった.従って上記(ニ)の可能性しかない.我々は既にこの患者においてgp91-phox遺伝子の5'上流約2Kbの塩基配列を終えており,変異部位と思われる部位を特定した. (2)好中球と単球・マクロファージ系は全く活性酸素を産生できないにもかかわらず,患者は62才まで軽い感染症は繰り返しながらも普通の社会人としての生活をしている.この事は,正常な好酸球が細菌の感染に対しても有効な防御反応を行っていることを示唆している.これは,従来殆ど省みられなかった好酸球の積極的に評価されるべき新たな役割と言えよう. 今後は,gp91-phox遺伝子の好酸球特異的制御機構およびその他の細胞即ち好中球,単球・マクロファージ特異的制御機構の解明を分子生物学的に進め,その応用を開発したい.特に好酸球における活性酸素産生系の制御機構の解明は,熱帯地域においては寄生虫の効果的な排除に対する,先進国においてはアレルギーの積極的な抑制に対する応用の道を開くものである. 2.非食細胞の活性酸素産生系とその役割:Bリンパ球の活性酸素産生系は基本的に食細胞のそれと同じであり,その発現制御機構は好酸球のそれとは異なり,好中球や単球の機構と一致した.線維芽細胞は骨髄系細胞とは異なったシトクロムb558を発現しており,その遺伝子のクローニングを試みているが,まだ確実なクローンは得られていない.けい動脈小体は解剖学的に特定しにくい事もあり,この部分について実験は続けているが,見るべき成果をあげることができなかった.前記の研究で作ったさまざまなプローブを用いて主に分子生物学的に解析を進めていく予定である.
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