研究課題
国際学術研究
自己免疫性水疱性皮膚疾患に種々の病型があるが抗表皮細胞膜抗体を示す代表的疾患は天疱瘡であり、自己免疫学的機序により表皮細胞間接着の障害を生ずる。表皮細胞間接着に最も重要なものはデスモソームであり、種々の天疱瘡の抗原物質はデスモソーム構成蛋白であることが明らかとなってきた。また、皮膚基底膜に病変を生ずる代表的疾患は水疱性類天疱瘡であり、自己免疫学的機序により表皮基底膜部接着の障害を生ずる。表皮基底膜部接着に最も重要なものはヘミデスモソームであり、水疱性類天疱瘡の抗原物質はヘミデスモソーム構成蛋白であることが明らかとなってきた。このほかの皮膚基底膜に病変を生ずる疾患としては、瘢痕性類天疱瘡、後天性類天疱瘡などがある。また、IgAの関与する疾患としてはジューリング疱疹状皮膚炎と線状IgA水疱性皮膚症がある。今回の研究では、まず、米国国立衛生研究所のスタンレー博士とデスモグリエン(落葉状天疱瘡抗原)と尋常性天疱瘡抗原について研究を進めた。まず、そのcDNAを利用しバキュロウィルス発現系を用いてより高度な高次構造を有する落葉状天疱瘡抗原と尋常性天疱瘡抗原それぞれのリコンビナント蛋白を作成した。以前より患者血清中のIgGを新生マウスに投与すると落葉状天疱瘡と尋常性天疱瘡それぞれの病変を再現できることが知られていた。この新生マウス動物実験系において、作成したリコンビナント蛋白を用いて患者血清中の自己抗体を吸収することにより実際に病原性のある自己抗体吸収できることを見出した。この事実は将来これらのリコンビナント蛋白の抗原特異的カラムを用いた血漿交換療法による新しい天疱瘡治療の可能性を示すもと言える。これらの成果はすでにいくつかの英文誌に報告した。次にデスモグリエンのcDNAを繊維芽細胞にトランスフェクトしその細胞膜上に発現された抗原に対する反応を調べることによりすべての落葉状天疱瘡血清がデスモグリエンと反応することを確認した。この実験系は落葉状天疱瘡抗原の解析をする上で非常に有用な手法になると期待される。さらに、将来トランスジェニックマウスないしノックアウトマウスを用いてin vivoにおけるこれらの分子の機能を研究するために、現在これらの蛋白のマウスのゲノムDNAを単離することをめざしている。これらの実験は天疱瘡の真の病態の解明、また治療法の確立に不可欠なものになると思われる。また米国ユタ大学のゾーン博士とは主としてIgAの関与する疾患を解析した。まず、私どもが、経験した稀なfibrillar typeの疱疹状皮膚炎患者につき詳細に検討し、さらに本邦における全疱疹状皮膚炎患者をいろいろな観点からまとめ、欧米の症例を比較検討し論文として欧文誌に発表した。さらに、現在、線状IgA皮膚症の抗原物質は明らかにされてないが、未知の97kD蛋白が抗原の一つである可能性を見出した。また一部の線状IgA皮膚症患者血清は290kD後天性表皮水疱症抗原と反応する事を見出した。これらの結果はすでにいくつかの英文誌に報告した。それ以外にもいくつかの米国皮膚科学会に出席し、また多くの米国の大学を訪問し、多くの研究者と様々な研究プロジェクトについて検討する機会を持つことができた。これらの交流を通じて将来様々な共同研究を進めることを決定することができた。現在、医学領域の研究の進歩は目を見張るものがあり、かつ、非常に高度の技術が必要になってきている。しかしながらその研究を施行している施設は各国に分割しており、必要な抗体、cDNAも個々の施設で各自が保存している状況である。また、研究技術的にも、生化学的、分子生物学的、免疫学的手法など多種必要である。今回行い得た、多施設での共同の研究は、種々の自己免疫性水疱症の病因および治療の進歩に大きな貢献をしたものと思われる。今後さらに、このような多施設の共同研究を進めることにより種々の自己免疫性水疱症の研究にさらに大きな成果をもたらすことが期待される。
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