研究分担者 |
YARCHOAN Rob National Cancer Institute, Retroviral Dis, Chief
満屋 裕明 National Cancer Institute, Experimental R, Chief
赤路 健一 京都薬科大学, 薬学部, 助教授 (60142296)
高田 寛治 京都薬科大学, 薬学部, 教授
|
研究概要 |
ヒト免疫不全症ウィルス(HIV)の有するプロテアーゼはアスパラギン酸プロテアーゼに属する酵素であり,ウイルス増殖の際に重要な役割を果たしている.この酵素HIVプロテアーゼを阻害することはエイズに対する新しい有効な治療法として有望である.我々は本酵素に特異的な切断部位Phe-Pro配列に着目し,酵素基質遷移状態概念に基づいて,ヒドロキシメチルカルボニルイソスターに対応するアロフェニルノルスタチン(Apns)残基を有する選択性が高く活性の強いHIVプロテアーゼ阻害剤(KNI化合物)を合成することに成功した.リ-ドオプチマイゼーションを進めた結果,最も優れた阻害材のトリペプチド誘導体キノスタチン(KNI)-272を薬剤学的研究及び臨床試験に用いることに決定した.さらに,このKNI-272について抗エイズ薬としての開発を進めるため今年度は以下の研究を行った. (1)KNI-272の水溶性プロドラッグ化および効率的大量合成. KNI-272は親水性が低く投与法が制限されているので,投与後体内で分子内アシル転移により活性型に変換するような水溶性プロドラッグを合成した.また,KNI-272の動態研究に必要となる高純度の大量の阻害材を確保するため,立体選択性を考慮しながら効率的合成反応を確立した. (2)KNI-272の小分子化.KNI-272はトリペプチドであるのでさらに小分子化を試みて,ジペプチド誘導体KNI-413とKNI-549をデザインし,これらがすぐれた抗ウイルス活性と薬物動態学的性質を持つことを見いだした. (3)抗HIV活性の測定.代表的なHIV感染継代培養細胞であるATH8 cell lineおよびエイズ患者の末梢血より分離した細胞およびAZT耐性細胞を用いてKNI化合物の抗HIV活性を測定した.さらに細胞毒性,耐性誘発性に関しても検討した. (4)KNI化合物のラットにおける血中薬物動態の測定と解析.KNI化合物をラットに静注及び経口投与し,24時間にわたって採血する.静注および経口投与に関する実験結果から得られるAUC値を比較することによりKNI化合物経口投与時のバイオアベイラビリティを算出した. (5)アニマルスケールアップの検討.ラット,家兎,ビ-グル犬を用いて得られた薬物動態速度論的パラメータを生理学的パラメータの関数として表現し,その結果を用いてNCIにおいて入院加療中のエイズ患者におけるKNI化合物の体内動態をシミュレートした. (6)複合免疫不全マウスにヒト末梢血単核細胞を移植したHuPBMC-SCIDマウスを用いたHIV感染モデルにおける薬効評価.SCIDマウスにヒト抹消リンパ球を移植したのちHIVを感染させ,KNI-272を腹腔内投与したところ抗HIV活性を示した. (7)エイズ患者に対するKNI-272を用いた臨床治療. エイズ患者に対して加療を実施し,KNI-272の血中動態を測定した. (8)KNI-272を用いた抗ウイルス活性研究の過程においてKIN-272に対する感受性の低下した変異ウイルスが見つかったので,変異ウイルスプロテアーゼの分子構造を解析し,変異酵素とKNI化合物との相互作用を検討した.このような変異ウイルスに対する,分子認識を考慮した新規な抗HIV薬の論理的分子設計の一般的方法論の確立をめざして一歩を踏み出した.
|