神経糖鎖生物学の新しい展開

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05044193
• 研究機関: 理化学研究所
• 研究代表者: 平林 義雄 理化学研究所, 国際フロンティア, チームリーダー (90106435)
• 研究分担者: YUーTEH Li チューレン大学, 医学部, 教授 ; 水落 次男 藤田保健衛生大, 総合医科学研, 助教授 (90133149) ; 古屋 茂樹 理化学研究所, 国際フロンティア, 研究員 (00222274)
• キーワード: ガングリオシド / ニューロン / ポリシアル酸 / 単クローン抗体

研究概要

100Kgという大量の牛脳組織より総糖脂質の抽出を終えた。Q-セファロースカラムクロマトグラフィーよりガングリオシドの分画を進めている。
モノシアロガングリオシド中にGM_2エピトープを持つ抗原物質が存在することをみいだし、それらの構造を明らかにすることができた。この新しい糖脂質はタイプI型の骨格構造をもったガングリオシドであり、中枢神経系では微量成分として存在していることを初めて見いだした。この構造決定に際し、Yu-Teh Liの発見した分解酵素とタイプII型の標準品が役立った。
ニワトリ発生初期の神経組織をマウスに免疫することにより得られた単クローン抗体493D4は、アルカリ不安定なポリシアロガングリオシドを認識する。抗体を使いラット成体脳での発現を検索したところ、海馬や顆粒細胞など記憶や学習に重要なニューロンに特異的に発現していることを見いだした。
このことは、正常の中枢神経においてもアルカリ不安定なポリシアロガングリオシドが、脳細胞に局所的に存在していることを示していた。現在、493D4抗体と反応する抗原を牛脳ガングリオシドより精製しているところである。
人工ポリシアル酸含有脂質は、3〜6個のシアロ脂質が合成できた。しかし反応中に用いた試薬が、神経細胞に対して毒性を有しているため、現在、HPLCにより高度に精製することを試みている。
神経細胞への合成脂質の薬理学的効果を検討するためには、培養系を確立しなければならない。最近、6FGFが海馬ニューロンの生存に必須であるとの報告がなされ、実際極めて有効であることを確認した。今後、種々の化合物の神経細胞への影響を調べる計画である。

研究成果

• [文献書誌] 平林義雄: "複合糖質研究を探る-神経科学と糖脂質-" ブレインサイエンス. 4. 55-64 (1993)
• [文献書誌] 中山淳,勝山努,平林義雄: "神経の発生・分化と糖鎖" 蛋白質 核酸 酵素. 37. 1914-1919 (1992)
• [文献書誌] 入江史敏,平林義雄: "極微量ガングリオシドの世界を探る-神経系に存在するChol-1ガングリオシドの構造と機能" 化学と生物. 31. 213-216 (1993)
• [文献書誌] Nakao T.,Kon S.,Ando S.,Miyatake T.,Yuki N.,Li Y.-T.,Furuya S.and Hirabayashi Y.: "Novel lacto-ganglio type gangliosides with GM2-epitope in bovine brain which are the possible antigens responsible for inducing the amyotrophic lateral sclerosis-like disorder." J.Biol.Chem.268. 21028-21034 (1993)
• [文献書誌] Hidari KIPJ,Irie F.,Suzuki M.,Kon K.,Ando S.,and Hirabayashi Y:"A novel ganglioside with free amino group in bovine brain." Biochem.J.276. 259-263 (1993)
• [文献書誌] Nakayama J.,Katsuyama T.,Sugiyama E.,and Hirabayashi Y.: "Polysialosyl glycoconjugates defined by a monoclonal antibody M6704 are expressed in human gliomas and embryonic neurons:" J.Histochem.Cytochem.41. 1563-1572 (1993)
• [文献書誌] 平林義雄(共著): "糖鎖の多様な世界 グリコバイオロジー シリーズ1" 講談社, 48 (1993)