研究課題/領域番号 |
05044216
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
安井 湘三 九州工業大学, 情報工学部, 教授 (50132741)
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研究分担者 |
古川 徹生 九州工業大学, 情報工学部, 助手 (50219101)
DJAMGOZ M.B. ロンドン大学, インペリアルカレッジ・生物学科, 教授
山田 雅弘 筑波大学, 生物科学系(併任), 教授
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研究期間 (年度) |
1993
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キーワード | 網膜 / 水平細胞 / シナプス / 可塑性 / グルタミン酸 / 2-アミノ-4-フォスフォノ酪酸 / サイクリックGMP / NO |
研究概要 |
本研究は、脊椎動物の網膜においてグルタミン酸を伝達物質とする錐体視細胞→H1型水平細胞のシナプス伝達に関するものである。定説ではこのシナプス機構は非NMDAチャンネル型の興奮性であるが、これは長波長感受性錐体からのシナプスには正しいが、短波長系統についてはAPB(2-amino-4-phosphonobutirate)をアゴニストとするコンダクタンス減少型かつ極性反転型のものであることを、本研究の日英グループはこれまで示してきた。 本年度からの重点課題は、問題の短波長系のシナプスのもつ機能、並びにその分子機構に関するものである。まず、このシナプス伝達は暗順応で可逆的に阻害され、阻害場所はAPBと同様にpost-synapticであることを入力抵抗の測定により日英で明かにした。従って、光の波長および明暗環境に依存した可塑性を本シナプスがもつことが分かった。次に、このシナプスの存在意義であるが、これについては水平細胞を特徴づける既知事実をまず理解する必要がある。すなわち、水平細胞はギャップ結合抵抗Riを介して互いに電気的にカップルしている。この状況は膜抵抗Rmを考え合わせたケーブルモデルで記述でき、水平細胞層内横方向の信号伝達効率は空間定数√<Rm/Ri>で表される。従って、問題のAPBシナプスがもつ可塑性は、H1水平細胞の受容野サイズを刺激波長と明暗順応に依存して変えることを示唆する。これを調べるために、受容野の中心または周辺に限定した光刺激を用いた実験を日英共同で行った。結果は予測通りで、青/緑光、明順応あるいはAPBにより受容野は狭く、赤光では広くなった。この状況をより定量的に理解するために、Rmが可変の非線形ケーブルモデルの構築を日本側で現在行っている。 水平細胞の受容野が明順応では狭く、暗順応では広くなるいう上記結果の一部についてその視覚生理的な意味を検討した。網膜が暗順応する視覚環境ではS/N(信号対雑音比)が一般に悪いので、大きな受容野でより広い範囲で平均を求める必要があるとまず理解できる。一方、水平細胞は双極細胞がもつ中心一周辺拮抗型受容野(CSRF)の周辺成分を供給すると一般に考えられ、また、周知のようにCSRFは空間2次微分によって輪郭強調の機能をもつ。だが、この微分の「切れ味」を良くするためには受容野は狭いほうが望ましく、これはノイズ濾過のための平均化(平滑化)と相反するものである。ここに、S/Nに応じた最適妥協点を得るための可塑性が必要となるわけである。受容野のこのような適応制御は、ノイズに埋もれたエッジの検出を逆伝播則を用いて学習させた人工ニューラルネットモデルの内部で発現したCSRFについても九工大における研究で確かめられている。 分子機構については、APBレセプターからチャンネル開閉に至る経路に、G-protein→PDE→cGMPおよびCa^<2+>→NOS→NO→GC→cGMPを含む代謝型であることが、nitroprusside外液投与やcGMP細胞内注入などのロンドン大学における共同実験で示されつつある。神経情報伝達の媒体として最近注目を浴びているNOがここでも一役担っているようである。 なお、H1水平細胞における短波長と長波長応答の相乗効果についてもAPBシナプスが関与している可能性を調べる実験を九工大で行ったが、結果は否定的であった。
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