研究課題/領域番号 |
05044219
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺嵜 亨 東京大学, 大学院理学系研究科, 助手 (60222147)
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研究分担者 |
野々瀬 真司 東京大学, 大学院理学系研究科, 助手 (70212131)
LUTZ Hans O. Universitat Bielefeld, Department of Phys, Professor
近藤 保 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授 (10011610)
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研究期間 (年度) |
1993
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キーワード | クラスター / 衝突反応 / 解離反応 / 吸着反応 / 表面散乱 / 多体効果 / クーロン爆発 / ラザフォード後方散乱 |
研究概要 |
メゾスコピックな物質系である気相クラスターの多体反応過程を解明する目的で、ビ-レフェルト大学のLutz教授らのグループと協力して、クラスターの衝突反応に関する以下の研究テーマに取り組んだ。 (1)クラスターと希ガス原子との低エネルギー衝突解離反応 クラスターの衝突解離反応では、その幾何構造、電子状態、結合エネルギーなどが反応過程を支配する要因となる。この動的過程を調べるために、比較的結合の弱い分子(Ar,CH_3OH)クラスターと、より結合の強い金属(Na)クラスターとについて、希ガス原子との衝突での反応断面積と解離生成物を測定した。これらの反応は、衝突によるクラスターの内部励起とそれに続く解離との二段階で進む。分子クラスターでは、内部励起の効率が非常に高いという実験結果から、クラスター内の1分子が希ガス原子と相互作用して励起され、エネルギー散逸後に単分子的に解離することが明らかになった。一方、金属クラスターの反応断面積は比較的小さく、内部励起の効率が低い。また、偶数よりも奇数サイズにおいて反応断面積が大きく、衝突解離過程が電子状態に依存することを示唆している。 (2)クラスターと高エネルギーイオンとの衝突反応 クラスターと高速イオンとの衝突ではクラスターの多価イオンが生成するが、これは電荷間の強い斥力のためにクーロン爆発を起こして複数のイオンに解離する。これらの解離生成イオンの空間分布と速度分布を測定することにより、クラスターの構造や解離機構が明らかになる。Lutz教授らが新たに開発した実験装置で得られたデータからこれらの情報を引き出すために、クラスターの対称性を考慮に入れたデータ解析方法を検討した。 (3)金属クラスターと有機分子との反応 金属クラスターの特異な反応性が現われると期待される系として、固体では不活性なアルミニウムを取り上げ、そのクラスターAl_n^+をイソプレン分子と低速衝突させて反応生成物を調べた。その結果、イソプレン分子の吸着とそれに引き続く水素原子の脱離などの反応が観測された。この吸着反応性は、Al^+では極めて低いが、サイズの増加とともに高くなり、n=4付近で最大となる。この傾向はAl_nのイオン化ポテンシャルのサイズ依存性と強い相関があり、イソプレン分子からAl_n^+への電子移動が反応に関与していることを示している。今後さらに、衝突誘起解離法や光電子分光法を応用して、分子の吸着・反応エネルギーや電子状態を測定する予定である。 (4)クラスターと固体表面との衝突反応 クラスターと固体表面との衝突過程では、衝突時の局所的な高圧状態や触媒作用により、特殊な反応が誘起されると考えられる。このような現象を追跡するためにシリコン表面との衝突散乱実験を行い、生成物を分析した。その結果、分子クラスター(C_6F_6)_n^-において、表面との間の電子移動が解離反応に関与していることが明らかになった。一方、金属クラスターAl_n^-では、クラスターの多体性に由来する多重衝突を示唆する結果として、解離生成物の反跳速度がサイズに依存することが見出された。さらに、炭素クラスターC_n^+では、サイズの増加に伴う散乱イオン強度の増加が観測され、これは電荷移動相互作用のサイズ依存性を示している。このほか、散乱後の中性生成物を再イオン化して分析する装置を新たに開発した。 (5)高エネルギーイオンと固体表面との衝突 高エネルギーのクラスターイオンと固体表面との衝突で、表面からどの程度の深さまで相互作用が及ぶかは重要な問題である。この点を解明するために、Lutz教授らの実験装置でラザフォード後方散乱を計画した。予備的な実験として、膜厚を制御したSi/CaF_2/Si表面を用意して、He^+の散乱後のエネルギースペクトルを測定した。その結果、Ca、Si、F、および各層の界面に由来するピークを観測した。今後、クラスターでの実験を行って、到達深度のサイズ依存性などの情報から、高エネルギー領域での相互作用機構を明らかにする。 クラスターと原子、分子、固体との衝突反応に関する以上のような成果をふまえ、今後、クラスター-クラスター衝突実験を開始して、これらの物理・化学過程における多体反応機構の解明を進める計画である。
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