研究課題
研究テーマ「入唐・入宋僧と浙江」、「漢籍と和書の相互交流」、「浙江人の日本留学と中国近代文学」を柱として、これらに関係する遺蹟の調査、関係文書の発掘、人物と典籍の交流などに主眼を置いた。まず仏僧の往来について鑑真の事蹟を記した『東征伝』や入唐・入宋僧達の旅行記にみえる浙江各地の記事の現地調査を行い、明州(寧波)より天台山に至るルートをたどり、また阿育王寺や天童寺など、鑑真はもちろん日本の留学僧が学んだ諸寺院、国清寺をはじめとする天台山の調査によって、旅行記の歴史地理的な価値を再確認し現状との比較を通じて従来の学説の誤りを正すことが期待される。その成果はすでに藤善の「大陸に消えた巡礼僧」「成尋をめぐる宋の人々-成尋と蘇東坡」に生かされている。また漢籍と和書の相互交流については、浙江図書館、杭州大学、天一閣などでの調査と日本の比叡山、大谷大学等で調査を行い、今年7月に刊行予定の王勇編『聖徳太子と中国文化』をはじめ、来年3月刊行予定の『日中文化交流史叢書典籍刊』に王勇、大庭、藤善の各論稿となって結実する。「浙江人の日本留学と中国近代文学」については、尾崎および研究協力者の内田により、杭州大学を中心とする資料調査により「浙江潮」や中国近代文学に影響を与えた各地の「白話報」の発掘があり、近く成果が公表される。予算の関係で次年度分に廻さねばならなくなった王宝平の成果も期待できるが、研究協力者の成果も今後に陸続と公にされるはずである。ただし単年度の調査には遺漏も多く、次年度に期待せざるを得ないことも事実である。例えば天台山の調査においても未踏の部分が多く残され、これと関係の深い台州さらに温州、舟山列島などの調査も未だである。テーマ以外にも倭寇関係や明・清時代の日中貿易に関する調査にも手を染めたいものである。