研究課題
国際学術研究
国定的な広域電力の連携には海底直流電力ケーブルが必要であり、西欧ではその開発が進められている。また、アジア地域でも広域電力の連携が必要であると日本の電気学会全国大会(1994年)で大韓国電気学会の李会長が講演された。このようなこともあり、我々の電気絶縁技術の国際的共同研究を支持するグループも多くなり、研究成果をあげることができるようになった。直流電力ケーブル開発の問題点のひとつに、直流電圧印加時に絶縁体中に空間電荷が蓄積し、著しい電界歪みが起こり絶縁破壊を引き起こすことである。従って、蓄積空間電荷分布を実際に測定して、電界が"どこで"、"どれくらい"歪んでいるかを知る必要がある。10年程前までは、この電荷分布を測定できる技術を持っていなかったが、我々のグループは平板状絶縁体試料中の空間電荷を測定できるパルス静電気応力法を開発した。そこで、次の段階として本研究の目的は、同軸状の架橋ポリエチレン絶縁体中に蓄積される空間電荷分布を測定できるパルス静電気応力法の空間電荷分布測定の技術を開発することにした。本研究により得られた成果は以下の通りである。(1)同軸形電力ケーブル中の空間電荷分布測定の実験(武蔵工業大学:田中康寛講師)これまでは電力ケーブル中に蓄積された空間電荷を測定することが出来なかったので、直流電圧印加時に発生する微小なピーク電流を測定して空間電荷が蓄積しているかどうかを推測していた。そこで、本研究では同軸電力ケーブル中の空間電荷分布を測定できる技術を開発し、実際に電荷分布とピーク電流の発生の関係を検討した。(2)パルス弾性波の伝搬と減衰のデータ取得と解析(西安交通大学:屠徳民教授、王新生講師)同軸電力ケーブル中の空間電荷分布測定技術は平板試料と異なるので、同軸状の誘電体中のパルス弾性波の伝搬の解析と確認実験を実施した。同軸状誘電体中をパルス弾性波が伝搬するとき弾性波エネルギーは半径の逆数で減少することを解析し、実験的にその確認を行った。この成果を実用化するために、コンピュータ・テーブルによりパルス音圧波を補正し、近似の空間電荷分布ρ(r)を算出する方法を開発した。この確認実験は屠徳民教授(西安交通大学)を招聘し武蔵工業大学で実施した。(3)誘電体-誘電体界面の空間電荷形成の研究(高麗大学:徐光錫助教授)電力ケーブルの接続部には必ず誘電体-誘電体界面が存在するので、その界面に空間電荷が形成されることを実験的に測定した。この実験は今回新たに武蔵工業大学で開発した測定装置を高麗大学に運び設置したので、精度と効率のよい実験データが得られるようになった。界面状態(接触界面、圧着界面、熱融着界面など)により空間電荷の蓄積量が異なる結果を得ている。そこで、徐光錫助教授(高麗大学)を招聘して、空間電荷の発生モデルおよび捕獲モデルなどの物性モデルを検討した。(4)英語、中国語、韓国語のテキストの作成(武蔵工業大学:田中康寛講師)(西安交通大学:王新生講師)(高麗大学:徐光錫助教授)このテキストは空間電荷分布測定の基本原理、弾性波減衰の補正法、電荷密度の校正法などが述べられている。そして、直流電流ケーブルの絶縁材料開発が国際的に展開できるように、英語、中国語、韓国語の3カ国語のテキストを作成し数十部を印刷した。世界の関係者に配布予定である。この成果により、パルス静電気応力法の空間電荷分布測定の技術が国際的に利用されることが期待される。
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