研究概要 |
本年度は,三年間にわたる国際大学間共同研究の最終年度にあたり 角膜移植の永久生着を目指す本研究の臨床応用の可能性を探る最後の年となった。 この共同研究が始まる前に,研究担当者の片見により 小動物である純系ラットを用いて紫外線による角膜移植の永久生着は実現されていた。しかし, 用いられた紫外線蛍光管(Philips,TL-12)は広域の波長特性であったため より効率的な照射のために紫外線の特異的な波長とそのエネルギー総量を特定することが課題となっていた。 この度,研究担当者のMr.Watsonによりケンブリッジ大学のMedical Physicsに属するKeith Langmack研究員を紹介され 彼が所有する英国に4台しかない単波長紫外線照射器(Monochromator,CT-25 IV,Jasco)を本研究に使用する幸運に恵まれた。このMonochromatorにより精密にその紫外線の特異的な波長が選択可能となり またきわめて難しいとされるエネルギー総量の特定もより正確にすることができるようになった。また,Mr.Watsonによりケンブリッジ大学眼科に留学中の広島大学眼科皆本敦先生を紹介され 動物実験においてその手術および観察を手伝っていただいた。以上の協力体制の下に 純系ラットを用いて角膜移植の永久生着に必要な紫外線の特異的な波長とそのエネルギー総量を特定することができ(300nm,200mJ/cm^2),その結果は 6th Congress of the European Society for Photobiology(September 3-8,1995,University of Cambridge,UK)において発表された。その内容は 角膜専門誌であるCorneaに原著として現在投稿準備中である。 11月に研究担当者の片見がミニブタによる最終実験を行うために約1ヶ月の予定で訪英した。当初の予定よりも期間が短縮されたのは訪英中の臨床の穴がどうしても埋められないためであった。すでに Watsonによりケンブリッジ大学の豚舎の手術室ではミニブタによる同種角膜移植の準備がなされていた。訪英後、ただちに移植のための technical confirmationのコントロール群が全身麻酔下にてミニブタで作成され 技術的に問題がないことを確認したから Landraceと
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いう種からLarge Whiteという種への同種角膜移植をコントロール群として行い 確実に拒絶反応が起こることを確認した。純系ラットによりもとめられた紫外線の波長と総量に基ずき ミニブタによる角膜移植の永久生着を目指す実験群の作成が開始された。ところが、ミニブタにおいてはラットにみられた著明な効果は得られず,コントロール群に比べてやや良好な角膜生着が得られる程度であった。この結果は我々が期待していたものよりはるかに遠く,その原因の追及がただちに行われた。 Mr.Watsonにより ケンブリッジ大学の施設内にある Medical Research Council(MRC)のMolecular Biologyに所属するDr.William B.Amosがこの問題の解決のために協力していただくことになった。Dr.Amosは三次元の画像解析ができるconfocal microscopeの開発者の一人であり 実験群の紫外線をかけたミニブタの角膜の形態の変化を調査していただいた。その結果,角膜の浮腫を防ぐのに重要な働きをする内皮細胞がダメ-ジを受け脱落していることがわかった。同様の紫外線をかけたラットにおいてはダメ-ジを受けることなく角膜移植の永久生着がみられることから ミニブタの角膜ではその紫外線の量は過剰であることが推察され より低量の照射による実験が今後必要であると考えられた。この時点で、片見研究担当者の帰国の段となり、以下の出席者によりこの協同研究の総括と反省と今後の展望について次のような提案がなされた。 Mr.Peter Watson(Dept.of Ophthalmology,University of Cambridge) Mr.David White(Immunologist,Dept.of Surgery,University of Cambridge) Dr.Mutsuo Katami(Dept.of Ophthalmology,Kitasato University) Dr.Atushi Minamoto(Dept.of Ophthalmology,Hiroshima University) Mr.Keith Langmack(Dept.of Medical Physics,University of Cambridge) 1.小動物実験について ラットを用いた角膜移植実験は 紫外線の波長特性および総量決定において極めて有効であり 角膜移植の永久生着を現実のものとし 臨床応用の先駆的な現象を表わしていた。 2.大動物実験について ミニブタを用いた角膜移植実験は 紫外線の総量決定はその取り扱う種によって異なっていることを示唆しており 今後低量の照射を検討し confocal microscopeにより形態学的に問題ない時点で角膜移植を行う必要があると考えられた。この実験はケンブリッジ大学眼科で引き継ぐ形でその検討が行われて行く。 3.臨床応用について 以上の動物実験より ヒトにおける紫外線照射は慎重におこなわなければならず英国Eye Bankよりヒトの眼球を研究目的のために提供してもらい confocal microscopeによる検討をする必要がでてくる。ケンブリッジ大学眼科の角膜専門医であるMr.Malcolm Kurr-Muirが今後臨床応用の責任者となり Eye Bankおよび病院の倫理委員会への許可申請を行う。角膜内皮に問題のない紫外線照射を施したヒトの眼球の作成が可能になった時点で ケンブリッジ大学眼科にて pilot studyを行い、その後世界各国での臨床応用を段階的にすすめて行く。 本研究は ミニブタを用いた角膜移植実験がまだ角膜の永久生着を実現のものとしておらず、予定の三年を越えてその実現を図らざるを得ないのは残念であるが この過程で得られたものは大きく 今後の展開が期待される。尚、データーのまとまった時点で今後発表および論文の発表を行って行く。 また、平成八年二月にMr.Watsonを北里大学に招聘する予定で準備を進めていたが、調整がつかず今回は残念ながら見送る事となった。 隠す
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