研究概要 |
深さ1000km以上におよぶマグマオーシャン(MO)中でのコア分離過程をシミュレートするために、超高圧での下溶融鉄(MI)とけい酸塩の間の元素分配を実験的に決定することを目指した。分割球型装置のアンビルとして焼結ダイアモンドを使用することによって30GPa以上での溶融実験が行えるようになった。また、二次イオン質量分析計により5μmの領域について濃度1ppm以下の元素分析が可能になった。これらの新しい実験法のもとでけい酸塩、鉄一けい酸塩系の溶融関係を調べ、MIと溶融けい酸塩(SL)および共存する固相との間の主要、微量元素の分配関係を圧力の関数として決定した。本研究で得られた主な結果は以下のようにまとめられる。(1)深さ600-1000kmのMOの底での地球始源物質のリキダス相はマグネシオビュスタイト(Mw)である。しかし、SL+Mwの領域の温度幅が狭いことからペロフスカイト(Pv)もコア形成前のMIと共存していた可能性がある。(2)20GPa以上の圧力では、SiとOのSLからMIへの溶解が圧力とともに顕著になる。従って、深いMOの中でコア分離が生じた場合にはマントルのMg/Si比が増大する。(3)Mn,Ni,CoのMIとSL,MwおよびPvとの間の分配係数が26GPaまで決定された。その結果、マントルのNiとCoの存在度はコア物質(MI)が900kmより深いMOの底でSLでMwと平衡にあれば説明できることがわかった。しかし、Pvが共存した場合にはさらにふかいMOが必要になる。(4)20GPa以上では、相当量の稀土類元素(REE)がSLからMIに溶解することが判明した。この溶解には軽REEと重PEEとの間に著しい分別がともない、コア形成後の原始マントルは軽REEに欠乏しているはずであることが示された。原始マントルのREEの相対存在度は先験的にコンドライトのものと同じであると仮定されていたので、この結果はマントルの化学に極めて重要な意義をもつ。
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