GPIアンカー生合成系遺伝子PIG-Aのクローニングとその異常の臨床的意義の解明

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 05102006
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 木下 タロウ 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (10153165)
• 研究分担者: 竹田 潤二 大阪大学, 微生物病研究所, 助教授 (50163407)
• キーワード: GPIアンカー / 発作性夜間血色素尿症 / 遺伝子病 / 糖鎖遺伝子 / 造血幹細胞 / X染色体 / 体細胞突然変異 / 補体

研究概要

発作性夜間血色素尿症(PNH)は、GPIアンカーの生合成不全によって起こる。GPIアンカー生合成に働くPIG-A遺伝子が病因遺伝子である事を2例の患者でまず証明した。GPIアンカーの生合成には10個前後の遺伝子が働いていると考えられるので、症例によって病因遺伝子が異なるか同一であるかを次ぎに調べた。17例の日本人患者を調べた結果、すべての患者でPIG-Aの異常を見いだし、病因遺伝子は均一である事を証明した。さらに、4例の英国人症例、9例のタイ人症例を解析し、いずれもPIG-Aの異常である事を証明した。PIG-A遺伝子の構造を解析し、エクソン6個からなる約17kbの遺伝子で、X染色体に存在することがわかった。X染色体の遺伝子は男女ともハプロイドであるので、PIG-A遺伝子へのワンヒットの突然変異がGPIアンカー欠損をもたらし得る。他の遺伝子が常染色体上にあれば、2つのヒットで始めて欠損となるので極めて頻度が低くなるはずである。このことが病原遺伝子の均一性の理由であろう。25例で確認した体細胞突然変異はすべて、1-数塩基の欠損、そう入、置換といった小さな変異であった。
PNHのモデル動物作製を最終目標として、まずマウスのPIG-A相同遺伝子Pig-aのcDNA、次いで遺伝子をクローニングし解析した。Pig-aはPIG-Aと非常によく似ており、X染色体に存在する事がわかった。
GPIアンカー生合成の中期に働く遺伝子PIG-BのcDNAをクローニングし、解析した。PIG-Bは554アミノ酸残基の新しいタンパク質をコードする遺伝子であった。

研究成果

• [文献書誌] Inoue,N.,T.Kinoshita,T.Orii,and J.Takeda.: "Cloning of a human gene,PIG-F,a component of glycosylphosphatidylinositol-anchor biosynthesis,by a novel expression cloning strategy." Journal of Biological Chemistry. 268. 6882-6885 (1993)
• [文献書誌] Takeda,J.,T.Miyata,K.Kawagoe,Y.Iida,Y.Endo,T.Fujita,M.Takahashi,T.Kitani,and T.Kinoshita.: "Deficiency of the GPI anchor caused by a somatic mutation of the PIG-A gene in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria." Cell. 73. 703-711 (1993)
• [文献書誌] Miyata,T.,N.Yamada,Y.Iida,J.Nishimura,J.Takeda,T.Kitani,& T.Kinoshita: "Abnormalities of PIG-A transcripts in granulocytes from patients with paroxysmal nocturnal hemoglobinuria." New England Journal of Medicine. 330. 249-255 (1994)
• [文献書誌] Bessler M.,P.J.Mason,P.Hillmen,T.Miyata,N.Yamada,J.Takeda,L.Luzzatto and T.Kinoshita.: "Paroxysmal nocturnal haemoglobinuria(PNH)is caused by somatic mutations in the PIG-A gene." EMBO Journal. 13. 110-117 (1994)
• [文献書誌] Kinoshita,T.,and J.Takeda: "GPI anchor synthesis." Parasitology Today. (in press).