1.ヒト由来の8-OH-dGTP特異的分解酵素の大量精製と生化学的解析 ヒトリンパ球系細胞であるJurkat細胞の粗抽出液中に8-OH-dGTPを8-OH-dGMPとPPiに分解する活性を見いだした。そこで、この活性を指標にして精製を試みたところ、5段階のカラムクロマトグラフィ-により、この8-OH-dGTPaseをほぼ均一な程度にまで純化することに成功した。には2〜6mMのMgイオンを必要とする。8-OH-dGTPを基質にする時のKm値は12.5μMと低いのに対し、dGTPの場合には70倍も高いKm値を示した。以上の酵素特性は大腸菌MutTタンパク質と極めて類似している。さらに、ヒト8-OH-dGTPは、MutTタンパク質と同様に、in vitroDNA合成系での鋳型のアデニン残基に対する8-OH-dGTPの誤った取り込みを抑制する能力を持っていることも確認された。 2.ヒト8-OH-dGTPaseをコ-ドする遺伝子のcDNAクロ-ニング 精製した酵素のペプチド鎖のアミノ酸配列より推定される遺伝子の塩基配列に基づき、合成DNAプライマ-を作成し、Jurkat細胞由来のmRNAを用いて逆転写酵素PCR法により目的のcDNAを増幅・作成した。約700bpのcDNAが分離され、このcDNAの塩基配列中に471bpのオ-プンリ-ディングフレ-ムが見いだされた。このORFから推定される分子量は17.9kDであること、ORFのアミノ酸配列は精製した酵素由来のペプチドの分析により決定した前述のアミノ酸配列と全て一致することなどから、本研究で分離されたcDNAはヒト8-OH-dGTPaseをコ-ドする遺伝子のcDNAであると結論された。ヒト8-OH-dGTPaseと大腸菌MutTタンパク質のアミノ酸配列の間には約30アミノ酸残基程度の高度に相同性のある領域が存在していた。このcDNAをmutT変異株大腸菌内で発現させた所、宿主菌のmutT変異の性質によって上昇した自然突然変異率がその1/10のレベルに低下した。また、宿主菌の粗抽出液中には8-OH-dGTPase活性が消失していたが、cDNAの発現に応じて、強い8-OH-dGTPase活性を示す分子量18kDのタンパク質が出現した。
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