研究概要 |
レセプターからのシグナルは多くの場合,チロシンキナーゼを介してRasに伝えられる.我々は,その機構を明らかにするため,P13K,GAP,PLCYなどのシグナル伝達分子との特異的結合に関与するTyr残基を各々Pheに置換したPDGFレセプター変異体を用いて,Rasタンパク質の活性化に必要なTyr残基について検討した.その結果,繊維芽細胞と血球細胞とでは,レセプターとRasのあいだで異なるシグナル伝達経路が選択されている可能性が示唆された. I型神経繊維腫症の原因遺伝子NF-1は,Ras-GTPase促進活性をもつタンパク質をコードしている.我々はその触媒領域における人工変異体を酵母を用いたアッセイによりスクリーニングし,正常型Rasの機能には影響せずに活性変異型Rasのトランスフォーム活性を抑圧するクローンを得,これらの変異が活性領域の単一アミノ酸置換であることを明らかにした.これらの変異体はおそらくGTP結合型Rasに特異的に固く結合し,標的分子との相互作用を妨げることにより,トランスフォーム活性を抑圧すると考えられる. 一方,活性化されたRasは,Raf,MAPKK,MAPKにシグナルを伝えることが知られているが,Rasの直接の標的分子は未同定であった.RafはRasの下流分子の中では最も上流に位置し,直接の標的分子である可能性が高い.そこで我々は,種々の細胞の粗抽出液に活性型(GTP結合型)または不活性型(GDP結合型)Rasタンパク質を加え,抗Ras抗体による免疫沈降を行なった.その結果,活性型Rasを加えたときに限りRafの共沈が観察された.変異体を用いた研究より,この結合にはRasのエフェクター領域ならびにRafのN末端のドメインが関与していることが明らかとなった.
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