まず我々は、ATL患者由来新鮮白血病細胞をSCIDマウスに接種した所、ATL症例8例中6例においてマウスに腫瘍形成を認め、これらのマウス体内で増殖している腫瘍細胞は、もとの症例のATL細胞と同じクローンである事を示した。次に、種々のHTLV-I感染T細胞株をSCIDマウスに接種した所、ある種の細胞株のみが造腫瘍性を示したが、これらの造腫瘍性を示す細胞株は、主に患者白血病細胞由来のクローンであり、非白血病細胞由来のin vitroにおいて不死化した細胞株は造腫瘍性を示さなかった。また、造腫瘍性を示す細胞株のなかには、in vitroにおいてIL-2依存性増殖を示すものも含まれており、in vivoにおける造腫瘍性とin vitroにおけるIL-2非依存性とは必ずしも相関しなかった。これらの細胞株のin vivoにおける増殖に関して、IL-2オートクリン機構の関与、およびHTLV-Iウイルスの発現との関連をノーザンブロッティング及び、RT-PCR法を用いて検討したが、その直接的な関与は否定的であった。さらに、HTLV-I tax遺伝子を導入したヒトT細胞株をSCIDマウスに接種した所、これらの細胞は造腫瘍性を示さなかった(国立ガンセンターウイルス部・下遠野邦忠博士との共同研究)。このことはin vivoにおいて造腫瘍性を示すためには、tax遺伝子のみでは不十分であることを示していると考えられた。上記の結果より、SCIDマウスを用いた系により、従来in vitroの培養系では困難であったATL患者白血病細胞の増殖をin vivoにおいては高率に再現可能であることが示され、また、種々のHTLV-I感染T細胞株、及びHTLV-I tax遺伝子導入ヒトT細胞株を用いた実験結果と併せて考えると、これらの細胞のSCIDマウスにおける造腫瘍性が、ATL細胞の腫瘍性増殖と深い相関を示すと考えられ、このin vivo増殖モデルがATL細胞の増殖機構、造腫瘍性のより詳細な解析を行ううえで非常に有用であると考えられた。種々のHTLV-I感染T細胞株を用いた実験結果からは、in vivo腫瘍性増殖へのIL-2オートクリン機構の関与やHTLV-Iウイルスの発現との関連は否定的であった。したがって、今後、このモデルを用いて、ATL細胞の腫瘍性増殖を規定する新たな因子の解析を進め、さらにそれらを通じて、新たな治療法の開発を併せて行ってゆきたいと考えている。
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