研究概要 |
phosphoinositide(PI)3-キナーゼはcatalytic subunitである110K蛋白(p110)とadaptor subunitである85K蛋白(85K)よりなる。インスリンがインスリン受容体に結合すると受容体に内在するチロシンキナーゼ活性が活性化され、IRS-1と呼ばれる蛋白がチロシン燐酸化される。この部位をp85のSH2ドメインが特異的に認識し結合して、IRS-1とPI3-キナーゼの複合体ができる。この複合体がインスリン作用の中でどのような情報を伝達しているか明らかにするために、P110と結合しえない変異p85を細胞内に大量に発現することを試みた。IRS-1上のp85結合部位をこの変異p85が占拠すれば、PI3-キナーゼがどのようなインスリン作用を伝達しているか明らかになると思われる。実際にこの変異p85を大量にCHO-IR細胞(Chinese hamster ovary細胞にインスリン受容体を発現させた細胞)に発現すると、IRS-1に結合しているPI3-キナーゼ活性は高度に低下した。さらにインスリンによるPI(3,4,5)3燐酸の上昇も低下していた。この細胞におけるインスリン作用を検討すると、インスリンによるrasの活性化は認められるが、糖輸送の活性化、膜ラッフリングの形成は認められなかった。すなわち、IRS-1に結合したPI3-キナーゼは、インスリンの作用の中で糖輸送の活性化、膜ラッフル形成を担っていると推定された。インスリンの糖輸送の活性化は糖輸送担体が細胞内から細胞表面へtranslocationすることによるが、変異p85を発現した細胞ではインスリンによる糖輸送担体のtranslocationが低下していることが確認された。従って、PI3-キナーゼは、細胞内のvesicleのtranslocationなどに関与していることが推定された。
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