研究概要 |
細胞が接触していない状態で熱処理されたヒト細胞の熱感受性は、正常細胞とがん細胞で大差はないが、細胞が互いに接触した状態になると、正常細胞のみが著しく熱抵抗性になるとした以前の結果を、複数のヒト胎児由来初代培養細胞および各種ヒトがん細胞について共通に見られることを確認した。こうした熱感受性差は、熱処理によって正常細胞とがん細胞に誘導される熱ショックタンパクの量とは全く関係はないが、誘導されたタンパクの核への移動が、がん細胞では、うまく行かないことと密接な関係があることを明かにした(Carcinogenesis,in press,1994)。 さらに、熱処理された細胞の死の動態を熱処理後、経時的に調査したところ、熱処理後2-4時間で顕著な核濃縮が起こり、その時期に合わせて細胞内へのカルシウムの流入が起きることがわかった。引き続き、12時間以内にエンドヌクレアーゼの活性化がピークに達し、ラダー状の電気泳動パターンに特徴づけられるDNA分子の崩壊がみられた。エリスロシン染色性細胞の出現は、かなり遅れ、熱処理後1-2日以上経てから顕著になり、その時期には、タイプIV型コラゲネースの活性がピークになることが明かになった(日本放射線影響学会第36回大会、第52回日本がん学会総会で発表、現在投稿中)。このような細胞死の動態は、一部胸腺等でみられるアポトーシスの過程と類似していると思われるが、細部では異なる点も多い。 熱感受性の高い細胞では、これらの過程の進行が急速である。顕著な熱抵抗性を示す接触状態にある正常細胞では、これらの過程のうち細胞内へのカルシウム流入の過程が著しく抑えられており、細胞死に結びつかないことがわかった。 今後は、熱による細胞死の各ステップをさらに分子レベルで詳細に検討するとともに、細胞接触した正常細胞で熱処理後、カルシウムの流入が著しく抑えられるメカニズムを明かにする必要があろう。
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