研究概要 |
進行大腸癌に対する新しい治療戦略策定のため、in vitro,in vivo,臨床検体において系統的有機的に生化学分子薬理学的解析をすすめた。 平成5年度は、5-fluorouracil(FU)獲得耐性株を用いてその耐性機序、耐性様式、耐性克服方法を研究した。獲得耐性ではFUの標的酵素thymidylate synthase(TS)の活性上昇がみられ、TSmRNA発現量増加が認められた。一方FUのRNA転入量は有意に増加していた。すなわち耐性獲得の過程において細胞性格が大きく変化し、RNA指向型細胞毒性に対しより感受性に変化したことが解明された。 FU獲得耐性克服にはRNA障害指向戦略が示唆されたため、新しい葉酸代謝〓抗剤;Edatrexateを用いてEdatrexate→FUのsequentialなbiomodulation(BM)をヒト大腸癌株で研究した。IC〓レベルのごく低濃度のEdatrexate先行投与にてFU単独よりも殺細胞効果は2〜3倍改善し、これはFUのRNAへの転入量が2倍増量していたことと関連しており獲得耐性克服の指標が得られた。 IL-1,IL-2を用いてFU効果増強のBMも研究した。極めて低濃度のIL-2(100u/ml)を併用することにより2.7〜9.7倍の効果増強が得られた。IL-2はTSの三元共有結合複合体の安定化増強作用を有することが示唆され、還元型葉酸代謝への作用も考えられた。IL-2の生化学的直接作用の解明へと発展させたい。 FU耐性要因の分子薬理学的解明と新しい感受性試験の開発目的にてTS遺伝子の検出方法を確立した。獲得耐性株では18.7倍の耐性度を示し、TS活性上昇、TSmRNA発現増加(4倍)、ゲノムDNA中のTS遺伝子増幅は認められずmRNAへの転写レベル増大またはmRNAの安定性指向によるものと考えられた。臨床検体を用いて、上記各因子と臨床効果との関連性を解析中である。
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