研究概要 |
Raf-1(Ser/Thrキナーゼ)は細胞膜で受容した様々な増殖刺激を核に伝達し増殖を誘導する上で必須の役割を果たす。これに相同なショウジョウバエ因子D-rafは、細胞の増殖のみならず分化決定にも関与する。D-raf突然変異を優性に抑圧する突然変異の検索を行ない、これまでに19系統を得た。この内、4系統はD-raf遺伝子座の復帰突然変異であったが、残りの解析から少なくとも3遺伝子座(Dsor1,Dsor2,Dsor3)をD-raf下流因子遺伝子候補と同定した。Dsor1遺伝子をP因子タッギング法でクローン化し、MAPKキナーゼをコードすること、そして、Dsor1の各優性突然変異でキナーゼドメインの良く保存されたアミノ酸残基の変異を認めた。Dsor2はMAPキナーゼに相同なDmERK-A遺伝子座の近傍にマップされ、実際に各Dsor2変異でこの遺伝子の突然変異を検出した。このようなことから、MAPKK→MAPKからなる進化の過程で強く保存されているキナーゼカスケードがRafの下流で機能することをin vivoで明らかにした。 Dsor3遺伝子のクローニングも進めつつある。Dsor突然変異と他の既知のシグナル伝達系突然変異との遺伝的相互作用の解析から、このキナーゼカスケードが複数の受容体Tyrキナーゼの下流で共通に機能することを見い出した。このことは、生体内では比較的少数のシグナル伝達系因子の利用によって、シグナル伝達の多様性と特異性を生じる仕組の存在が示唆される。これを理解するために、Dsor優性突然変異によって表現型が抑圧または増強されるようなP因子挿入突然変異の検索による未知因子の探索を体系的に進めつつある。そして、これまでに様々な表現型を示す突然変異7系統を分離し、その遺伝子クローニングと併せて、生体内での複雑なシグナル伝達ネットワークの解明を試みつつある。
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