広範に存在する環境リスクを社会がどう受けとめ、対応の仕組みがどう形成されているかをいくつかの手法で比較し、わが国の環境リスク対応の政策課題の一端を明らかにするのが本研究の目的である。平成3年度は、わが国の硝酸性窒素地下水汚染とアメリカ合衆国における果物への残留農薬汚染をとりあげて地下水汚染のリスク対応の比較を行うと共に、アンケート調査を通し環境リスクの知覚に関する分析を行った。平成4年度は勇気塩素系農薬使用禁止以降の環境動態の検討と、DEMATEL法によるアンケート調査を通し、リスク評価の技術的課題について検討した。 本年度は、リスク事象の展開経緯と変遷の構図を時間と空間の広がりを意識して比較し、わが国の環境リスク対応の制度上かの特徴と課題を検討した。時間的広がりを意識して採用したのは初年度事例とは別のクロム漏洩地下水汚染事例である。汚染発生以降の経緯と健康リスク情報の獲得について考察し、米国における法・制度との比較ものとで、わが国のリスク対応の一つの特徴である「リスクの封じ込め」について検討した。空間的広がりを意識して採用したのは途上国への直接投資にともなう有害廃棄物問題で、リスクの越境移送と現地における対応、特に諸国のリスク対応が相互に干渉しあう際の齟齬の問題について、上記地下水汚染事例の分析を比較のベースに含めて考察した。
|