平成3〜4年度においては、1960〜70年代、特に欧米において出現した環境倫理学思想を、ウイルダネス(原生自然)概念の変遷を中心として歴史的分析の手法で検討し、歴史・文化的文脈や社史的文脈に位置づけ、相対化した。今年度は前年度までの歴史学的研究を踏まえて、非西洋社会への射程も包含するような新しい枠組の環境倫理学(STS環境倫理学)の理論の枠組みの構築とその基本的概念に関する基礎作業を行った。 新しい環境倫理学の基本的枠組の根幹は、人間中心主義vs人間非中心主義の対立図式の見直しにある。つまり、人間と自然の二分法を脱却し、人間と自然との関わりを全体的に捉えることにある。そこで自然との関係の在り方に関する概念装置として、「生身」(人間が、社会的・経済的・文化的・宗教的リンク[以後、「社会的リンク」と総称する。]のネットワークの中で自然と関わり、不可分な関係にある人間-自然系の在り方)と「切り身」(そうした社会的リンクのネットワークが切断され、人間が「自然」との間で部分的な関係を取り結ぶ在り方)という二つの概念を導入し、これらの概念装置によって「社会的リンク論」という理論体系を構築し、今までの環境問題や環境倫理学を再検討した。この理論の新しい点は、人間と自然との「全体性」を、さまざまなレベルで存在している社会的リンクのネットワークの総体として規定し直したことで、このことによって、現実の環境問題の分析や解決の道筋を客観的に研究するための方法論が可能になった。 さらに、近代科学技術をその新しい理論の枠組の中に位置づけ、科学技術倫理を根幹に据えた環境倫理学の構築が必要であり、可能であることを示し、その新しい環境倫理学を、STS環境倫理学と仮称した。このことによって、テクノロジー・アセスメントの意義を新たな地平で明らかにし、その意味でこの理論の実践的含意を明確にした。
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