研究概要 |
マイクロ・スリップとは日常的な行為の遂行過程に観察できる手の微小な動きである.本年度は成人を対象にマイクロ・スリップの出現を規定するさまざまな条件について分析した.と同時に少数の乳児を対象にマイクロ・スリップを予備的に観察した. 観察1:環境の視覚的複雑性の影響について:5×4の格子のあるトレイ上に,目標の達成に必要とされる材料のみがある「単純条件」と不必要な材料も置かれている「複雑条件」という二条件で観察した.課題は「紙コップに2杯のコーヒーを入れる.一方にはクリームと砂糖を,他方にはクリームのみを入れる」ことであった.課題遂行するための平均所要時間には両群間に差がなかったが,課題を達成するまでに観察されたマイクロ・スリップ数には差があった視覚的に複雑な環境の方がマイクロ・スリップが多いことが示唆された。 観察11:行為の反復の効果:行為の繰り返しという条件を検討した.観察1の複雑条件と同様な課題条件下で3回続けて「コーヒーを2杯入れる」ことを求めた.第一試行の出現数は5.6回,第二試行では,2.0回,第三試行では,1.8回だった.分散分析では出現回数に有意な効果を認めた。 予備的観察:乳児にマイクロ・スリップは観察できるかを、1992年5月生まれの1歳児と1991年9月生まれの2歳児の観察から検討した。結果は1歳児からマイクロ・スリップを観察できる.乳児のマイクロ・スリップは成人の単純条件とほぼ同じ頻度で出現し,その種類及び形態もほぼ同様であった.マイクロ・スリップは「発達しない現象」である可能性があることが示唆された。
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