研究概要 |
(1)法的知識を1階の言語の拡張によって,どのように形式的に表現できるかという技術的な問題と,その背後にある哲学的論理学的問題を考察した.前者については対象を一般名詞によって指示する記法を加えることで,また時制を示す操作子を導入することで表現可能であることが分かった.後者については,指示詞と時制に共通する言語哲学的構造,つまり指標性に着目し,その翻訳を考察した(西脇).(2)法的知識についてのオートポイエーシス理論を参考にした分析,法的推論の社会学的分析ならびに法的世界についてのダイナミクスについての進化論的モデルによる再構築を試み,そのような作業が法律エキスパートシステムの基礎作業として重要であることを見いだした(太田).(3)法律専門家が法的知識を用いる方法を,不法行為を題材にして法律的言説と日常の言説のかかわり合いを分析し,法律専門家が一般人の法的知識に自分達の法的知識をどのように翻訳していくかについての基本的な枠組みを見いだした(松浦).(4)システムとしての知識という観点から知識の問題を捉えなおし,法律エキスパートシステムが扱うべき知識の性質として,このシステムは閉じたものではないから,必要な知識を全て備えることは不可能であり,推論に必要な知識を問題に応じてインプットするインターフェースが必要であること,また推論エンジンも暗黙知といわれる,推論の前提となる知識を推論の条件として取り込むことができなければならないことを示した(森際).(5)推論についての法的推論について心理学的立場から考察し,ファーナムに始まるレイ・セオリーの観点に従えば,専門家の法的推論は専門家の(科学の世界の)推論のように専門性は高くなく,素人の推論様式に近いこと,また法律の世界で重要な帰責についての推論の分析には帰属理論の枠組みが重要であることを見いだした(松村).
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