本研究は、高等植物フェレドキシン(Fd)の[2Fe-2S]クラスターの物性とポリペプチド鎖由来の分子環境との関連を、蛋白質工学的手法を用いて明らかにすることを目的としている。これまでの研究により、[2Fe-2S]クラスターを保持し、電子伝達能を発揮するのに必要な分子環境を形成するには、クラスター近傍のアミノ酸残基にかなりの自由度があることが判明していたので、側鎖構造を大きく変化させたような新たな改変体を検討した。[2Fe-2S]クラスターに配位しているCys近傍の残基の側鎖を出来るだけ単純なものに置換することを基本とし、全ての天然のFdで水酸基をもつアミノ酸である39、46および47番目の残基を、Gly、としくはAlaに置換した。 野生型Fdの酸化還元電位は-345mV、S39Aは-353mV、S39A/S46A/S47Aは-311mV、S39A/S46G/T47Gは-162mVであり、46及び47番目の残基の側鎖を小さくすることで電位は大幅に上昇することが観察された。NADP^+の光還元や亜硫酸還元酵素(SiR)が関与する亜硫酸の還元とともに、非生理的な反応も同時に調べた。生理的な反応系で電子伝達活性を示さなかったS39A/S46G/T47Gは、シトクロムcの還元や自動酸化性では元の野生型よりはるかに高い活性を示した。つまり、この改変体はFNRを介してNADPHにより還元され、しかも受け取った電子を非生理的な電位の高い電子受容体へは、野生型よりも高い効率で電子を伝達できることを示すものである。また、SiRとの電子伝達活性では、S39A/S46G/T47Gはほとんど活性を持たないけれども、この改変体を野生型Fdと共存させると、野生型Fdの活性が阻害されることが観察された。そして、この阻害様式は拮抗的であり、阻害剤定数は野生型のミカエリス定数に匹敵することが判明している。したがって、この改変体Fdは野生型Fdと同程度の親和性でSiRに結合するけれども、SiRへは電子を伝達することができず、亜硫酸還元反応は起こらないと結論される。
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