ミトコンドリア型シトクロムP-450の電子伝達系はフラビン酵素であるNADPH-アドレノドキシン還元酵素、アドレノドキシン及びシトクロムP-450より構成されており、主に副腎皮質においてステロイドホルモンの生合成に携わっている。本年度の研究では、アドレノドキシン還元酵素からアドレノドキシンへの電子伝達の機構を解明することを目的として、アドレノドキシン還元酵素とアドレノドキシン及びNADP^+との相互作用の動的及び静的性質を^1H-NMRを用いて明らかにすることを試みた。1.NADP^+の^1H-NMRシグナルの線幅は還元酵素の添加によって広がる。この線幅の広がりは還元酵素とNADP^+との混合比率に依存する線幅はフリーのNADP^+の寿命に依り、Kd値を考慮するとNADP^+の還元酵素からの解離速度を約15-20s^<-1>と求めることが出来た。2.NADP^+の静的な結合様式はNOEスペクトルより決定した。還元酵素の存在下ではニコチンアミド部分のN2プロトンは糖部分のN1'プロトンとの間に強いNOE信号が見られ、N6プロトンはN2'プロトンとの間に信号が見られた。同様にアデニン部分ではA8プロトンとA2'プロトンとの間に信号がみられた。このことより、NADP^+の糖-塩基結合のコンフォメーションは両者ともアンチ構造をとることが分かった。アドレノドキシン還元酵素はニコチンアミド環4位炭素上のS位水素と特異的に反応する。従って、NADP^+のニコチンアミド環はアンチ構造をとり、S位水素側をFADのイソアロキサジン環に向けて結合している。従来相同な酵素だと考えられていたFNRのNADPH結合様式とは全く異なることが判明した。3.還元酵素に対して過剰なアドレノドキシンの存在下、緩和時間の塩強度依存性を測定した。塩強度が上がると共に緩和時間が短くなるが、低イオン強度ではフリーのアドレノドキシンの緩和時間と同等であり、アドレノドキシンの解離速度の上限は緩和時間より4s^<-1>と計算された。この速度は低イオン強度条件でのアドレノドキシン還元速度と同等であり、還元酵素からアドレノドキシンへの電子伝達の律速がアドレノドキシンの解離過程にあると結論された。
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