研究概要 |
本研究の目的は、フェムト秒極限光パルスに高効率でスペクトルひろがりを与える自己位相変調素子を見いだすことである。そのために、本年度は以下の項目について研究を行った。 1.2次、3次非線形性の大きい有機材料DAN(4-(N,N-dimethylamino)-3-acetamidonitrobenzene)を用いたファイバーを作製し、群速度分散が大きく非線形性も大きい材料を用いたファイバー中のフェムト秒光パルス伝搬についての実験的・理論的研究を行った。DANファイバー伝搬後のパルスには長波長側へのスペクトルシフトが見られ、これは自己位相変調を引き起こす原因となる非線形屈折率の応答速度の有限性に起因することを明らかにした。 2.2次・3次分散、伝搬損失、初期周波数チャープ、自己急峻化の効果の他、正常分散域における非線形屈折率の応答時間効果を初めてとりこみ、DANファイバー中のフェムト秒パルスの伝搬およびパルス圧縮効率に関する理論解析を行った。その結果、非線形屈折率の応答時間効果が存在する場合でも、2・3次の位相分散補償を行えば、応答時間が存在しない場合と同程度のパルス圧縮効率が得られることを明らかにした。具体的には、DANファイバーを用いることによって、100W,100fsの光パルスを10fs程度に圧縮可能なことが示された。また、その結果、非線形性は大きいが、応答時間がある程度遅いと考えられる有機材料もパルス圧縮用自己位相変調素子として有望であると結論づけられた。 以上の項目を通じて、高効率自己位相変調素子の実現へ向けて重要な指針を示せたものと考える。
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