本研究は、対象モデルの概念および方法による工学知識の体系的モデリグ法と、このモデルに基づく知識獲得に関する研究である。工学における問題解決では、対象に関する原理・原則および構造・機能に関する知識が重要である。この種の知識は深い知識と呼ばれて、経験則等の浅い知識と区別されている。深い知識は知識の客観性と解釈の多様性という基本的特徴をもつ。また、エンジニアによるこのような工学知識の獲得法は、従来広く行われている事実の集合からのルールの帰納推論ではなく、客観的な工学上の法則あるいは既に存在する工学システムに関する設計書や仕様書等の記述情報からの“表現の変換"による知識獲得や学習であると考える。このことは、エンジニアが文献や専門書から専門知識を獲得していること、システムの設計、分解あるいは修理などの作業を通してそのシステムの構造や機能に関する専門知識を獲得していること、既に持っている知識を用いて類似のシステムの知識を容易に学習していること、などから明らかである。我々はこの方法をTBL(Transformation‐Based Learning)と呼ぶ。 本研究の長期的目標は、工学知識に関する共同利用型多目的知識ベースの構築と利用のための実践的技術の開発である。知識モデリングの研究は、2つの対象領域すなわちプログラムとデジタルシステムに関して行った。知識獲得に関しては、デジタルシステムを対象として3種の方法を研究した。第1はe-rモデルに基づくデータベース記述からTBLによって対象モデルを生成する方法、第2はVLSI記述言語であるVHDLで記述されている論理回路の定義からTBLによって対象モデルを生成する方法、第3は対象モデルで表現されているデジタルシステムを用いた故障シミュレーションによる診断ルールの生成法である。これらの知識獲得法に関して概念設計と基本部分については実験システムを作成し有効性を評価した。
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