本研究では、SiとCのレーザーアブレーション時のその場測定を0nsから120nsの範囲で試みてきた。その結果、この時間領域でおもに生成されているのは、Siに関してはSi原子と+イオンが、またCに関してはC原子と+、-のイオンが主であることが判明した。しかし、そのほかにもSiでは同定できなかったSiクラスターと思われるブロードな吸収線が見られ、一方、Cについても286eV付近にC_2またはC_3と思われる吸収線が観測された。そこで、高圧のHeガスのパルスをアブレーション粒子に吹き付け、超微粒子形成の促進を試み、吸収スペクトルの変化を調べた。その結果、Si表面から距離が1mmまでの領域では、ほとんどスペクトルに変化がみられなかった。即ち、超微粒子に対応した新しい吸収線は現れておらず、また前述のブロードな吸収線の増加も見られなかった。しかし、1、5mm以上離れた場所においては吸収スペクトルの変化が観測された。これは、Si粒子とHe原子の衝突過程でイオンの荷数が変化したものではなく、高圧のプルーム先端に押し集められたHeガスの高圧領域が発生し、その結果、プルームの膨張が押さえられ、Si原子と各Siイオンの空間分布が変化したためと考えられる。これらの結果より、超微粒子の形成は120nsまでの時間領域では起こっていないことが明らかになった。CのレーザーアブレーションとパルスHeガスの吹き付けの実験でも結果は同様である。 以上の研究結果より、Heガス吹き付けを伴ったレーザーアブレーション時の超微粒子形成の動的過程を本実験手法で追跡するためには、数100nsから約1msの間の一層遅い時間領域を更に調べる必要があることが判明した。
|