1.正方格子J_1-J_2模型に基づき、フラストレーションと量子ゆらぎとの競合を研究し、スピン波分散と副格子磁化を1/S展開で二次の補正まで計算を行った。両方の量とも、線形スピン波理論の結果への補正は、フラストレーションが増すにつれて増大する。二次の補正はJ_2/J_1<0.35では小さく、展開はよく漸近収束している様に見え、よい定量的評価を与えると思われる。補正項はJ_2/J_1<0.4で正の値をもち、線形スピン波理論の結果と較べて、ネール秩序を安定化することが、見い出された。このことは、線形スピン波理論は量子ゆらぎを過大評価しており、それから導かれるJ_2/J_1〜0.5付近でのスピン流体相の存在は、存在するとしてもより限られた領域に制限されるものと考えられる。J_2/J_1>0.4では、2次の補正は絶対値の大変大きな負の値をとり、展開が悪くなることを示している。以上の計算においては、波数に関する多重積分の計算が必要になるが、本年度補助金により増強したワークステーションの利用が大変有効だった。 2.t-J模型に基づき、ハイゼンベルグ反強磁性体に低濃度ドープされたホールの運動を研究し、ドルーデ強度と光学伝導度の計算を行なった。slave-fermion Schwinger-boson表示に基づき、ホールのグリーン関数を、自己無撞着ボルン近似を用いてドーピング濃度δの一次の範囲まで正確に求めた。ドルーデ強度Dは、ゲージ不変性とワード恒等式の助けを借りて決定された。Dはδに比例し、又、上記ホールポケットの準粒子有効質量の逆数に比例することがわかった。又、DはJ/tの増加に伴いゆっくりと増加する。有限振動数での伝導度も計算され、スピン励起に特徴的な振動数の近くに大きな強度が見いだされた。これは実験で観測されているmidinfrared bandに対応するものと考えられる。
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