研究概要 |
本研究の目指す目標は光電子分光計算を従来のマフィンティンポテンシャルによるKKR法の計算からより精密なものに変えて、角度分解光電子分光のスペクトルの計算と実験との一致をより良くすることにあった。最終的には光電子分光プログラムの計算アルゴリズム全体を根本的にKKRから新しいセルフコンシステントな計算に置き換えることが必要ではあるが、本研究では今年度でできる範囲として、計算アルゴリズムの全体はいじらずに、個々の原子に対応したマフィンティンポテンシャルのみを別のセルフコンシステントな計算から切り出してきて入力データとして使うという方法を採った。 光電子分光は必ず光電子を表面から飛び出させるために、電子状態、原子構造なども必ず表面を取り入れた計算にしておかないといけないが、ポテンシャルをつくるためのセルフコンシステントな計算法としては、まず、フルポテンシャルLMTO(FP-LMTO)で周期スラブ模型で計算した。これにはFP-LMTOを開発したベルリンのFritz-Haber研究所の協力も得、強磁性ニッケルの(100),(110),(111)という三つの代表的な清浄表面について9から11層のスラブ計算でセルフコンシステントなポテンシャルとそのときの表面第1層と第2層の原子位置緩和を求めた。これらを入力データに用いた計算はそれまでのニッケルの角度分解光電子分光計算を格段に改善し、この方法でかなり光電子スペクトルを改善できることを示すとともに、従来単純なバンド計算の破綻といわれていた実験との不一致を少なくとも半分くらいまでには縮めた。此の成果の一部はすでに発表済みで、現在最終的論文をPhysical Review誌に投稿中である。 現在、同様の方法を今度はLAPW法を用いて銅の表面のセルフコンシステントなポテンシャルを広島大学の小口助教授の協力で計算中である。
|