大気・海洋間での炭酸ガスの交換速度を正確に評価することは、二酸化炭素による地球の温暖化を予測するうえで、さらには、海洋表層の生物等を利用した炭酸ガスの固定化技術の効率評価を行ううえで極めて重要である。しかし、流体力学の知識の全く欠けた海洋化学者によりこれまで炭酸ガスの交換量評価に関する研究が行われてきたため、その交換係数(ピストン速度)を風速やウインドシアーの比例関数で強引に相関する方法がとられており、その妥当性については物理的に検討されていない。そこで、本研究では炭酸ガスの交換速度を風波水槽を用いた室内実験により測定し、その測定結果を基にして大気・海洋間での炭酸ガスの交換機構を海洋表層の乱流構造と関連づけて流体力学的に解明することにより、現実の大気・海洋間での炭酸ガスの交換速度を評価することを目的とした。 本年度は風波乱流水槽を改良し、2〜20m/sの風速範囲で風を吹かせて炭酸ガスの放散実験を行うことにより、炭酸ガスの交換速度を測定し、その結果が従来の測定結果と全く異なることを示した。また、実際の大気・海洋間での炭酸ガスの交換速度の評価を行うためには海水中に含まれる物質が風波界面を通しての炭酸ガスの交換速度に及ぼす影響を明らかにしなければならないが、これについては、自然海水を満たした振動格子乱流水槽を用いて炭酸ガスの吸収実験を行うことにより、水道水の場合の交換速度と自然海水の場合の交換速度との間には大きな差があり、海水の場合の交換速度は水道水の場合の約半分にまで減少することを明らかにした。また、海水の場合にも水道水の場合と同様に表面更新の概念が成立することがわかった。さらに従来の温暖化予測モデルにおいては大気・海洋間での炭酸ガスの交換量をかなり過小評価している危険性があることが明らかになった。
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