研究概要 |
海底における熱およびエネルギーの収支を明らかにするという目的に沿って、平成3年度から研究を行なってきた。平成5年度は、特にプレート収束域である南海トラフと相模湾に重点を置いて観測を行ない、いわゆる冷湧水のocean fluxに果たす役割について考察を行った。 南海トラフでは、西部(室戸岬沖)での高熱流量分布が認められており、トラフ底堆積物の圧縮による間隙水の湧出にその原因が求められていた。今回の研究では、これに対して東部トラフ底での低熱流量(70-90mW/m^2)がほぼ明らかになった。この原因としては、間隙流体の流動の活動度が西部に比べて低いことが考えられる。また、四国海盆の年齢から予想される熱流量値に比べても、観測値が低くなっているが、これはトラフ底の堆積物の急激な堆積によるものであろう。今後は、東西の熱流量分布の差について、物理的のみならずテクトニクス的考察を加えて行く必要がある。 相模湾では、シロウリガイコロニー近傍での高精度の温度連続観測(1年間)の結果を解析した。水温記録のフーリエ成分から、各センサー毎の温度勾配と熱拡散率を最小自乗法により推定することができ、この結果を用いて、海底下の温度記録から、水温変動の影響を取り除いた。この結果、温度勾配を精度よく決定することができた。コロニー近傍では1000mK/mを越す高い温度勾配が得られた反面、コロニーの端から20m程度離れるだけで、温度勾配(従っておそらくは熱流量値も)が2/3程度に下がってしまうという、熱流量分布の局所性が明らかになった。また、温度勾配の値が、1年間の測定期間を通じてほぼ一定であったことは,この間隙水上昇の影響が定常的であることを示唆する。 このほか、間隙流体の移動にともなうと考えられる。非常に局所的な温度の異常変化が観測された。今後もこの方法により、海嶺などの熱水地帯でも同様の観測を行なってゆく予定である。
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