演奏者が異なれば、同じ曲でも異なって演奏される。演奏者は自分の解釈を実際の演奏として表現するためには、楽器のさまざまな物理量を制御するわけであるが、ピアノの場合だと、各音符の打鍵のタイミング、強さ、ペダリングがとくに重要である。つまり、これらの物理量は演奏の印象を支配する感性情報とみなすことができる。今年度は主としてこれらの感性情報がChopinのワルツの一部を複数の演奏者の異なった演奏に対する聴取者の印象とどのように関連しているかを調べた。まず、演奏のタイミングについては、打鍵のタイミングの差異とそれらの演奏を聴いたときの聴取者の心理的印象の間の相関係数は0.55-0.57で、かなりの相関があることが示された。また演奏意図とタイミングの間にも明確な関連性が観測された。次に演奏のダイナミクスも、ピアノによる演奏意図の表現において重要な役割を果たすと考えられるが、演奏の打鍵の強さの差異とそれらの演奏を聴いたときの聴取者の心理的印象の差の間の相関係数は0.19で、あまり相関がないことが示された。さらに、ペダリングが演奏によってどのように異なり、それがどのように聴取者の心理的印象に結びつくかを調べた。その結果、ペダリングの状況は、演奏意図よりも演奏者により強く依存しており、タイミングやダイナミクスの物理空間と好ましさの相関はあまり強くなかったが、ペダリングの物理空間と好ましさとはかなり関連が強いことが明らかになった。 その他に、演奏者と楽器の違いのどちらが聴覚的印象により大きな印象を与えるか、また視覚的な情報の心理的印象への寄与度についても調べた。
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