静止した「空間」表現の中に「時間」印象を感じることがある。例えば、絵画や写真の中に、"一瞬"や"過去"、"持続する時間"等を感じることがある。この場合、いったいどのような「空間」要因が「時間」印象の生起に関与しているのであろうか。本研究は、芸術作品を刺激として、画面から感じられる時間印象の構造を探るとともに、それを規定する空間要因(視覚要因)の分析を通して、感性情報処理の一端を考察するものである。 刺激には近代から現代に制作された芸術作品(絵画または写真)を採用し、現代における時間のあり方を併せて検討することとした。自由記述による予備実験を経て、32の刺激および60の形容語を選び出し、各刺激に当てはまる形容語を、132名の被験者に選択させた(記述選択法)。単純集計の結果から点相関係数を算出し、因子分析およびクラスター分析を行った。 画面に感じられる時間印象については、「過去-現在-未来に渡る時間軸でのある時点」、その間を穏やかに流れる「持続する時間」、「時間の停止」、そして時間そのものではないが時間と深く関わる「動き(変化、速度)」が抽出された。 表現法の観点から概観すると、「過去-現在-未来」の時間軸には色彩の影響が、「持続する時間」には安定した構図が、「停止した時間」には比較的単純な構図と余白による心理的な投映効果の余地が示され、一方、「動き」には細かな画面分割や激しい筆遣いが見られた。 今後は、作品の選択を再考し、視覚的要因との関係づけを充実させるとともに、鑑賞のみならず制作の方向からの検討も行う計画である。
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