これまでに、ヒト羊膜を種々の方法で架橋し、その物理特性について検討した。本年度は羊膜と生体との相互作用について調べるため、羊膜上で細胞を培養し、その付着について検討した。さらに赤外吸収スペクトルより羊膜の表面性状について考察した。 まず、羊膜上でラット繊維芽細胞を培養した。羊膜は膜厚が約5μmで培養基材として扱いにくいため、両面をドーナツ状のポリエチレンテレフタレートフィルムではさみ、固定した。この結果、繊維芽細胞は羊膜の面にかかわらず、ほとんど付着しなかった。表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面は繊維で履われており、コラーゲン繊維を主成分とすることが示唆された。 通常、コラーゲン上には細胞が良好に付着する。そこで、羊膜上で細胞の付着しない理由を調べるため、羊膜の赤外吸収スペクトルを測定した。透過吸収スペクトルはコラーゲンフィルムのものとほとんど同一であったが、表面吸収スペクトルはコラーゲンと同一の吸収のほかにヒアルロン酸などの多糖類と共通した吸収をも示した。これらのことから、羊膜はコラーゲンが主成分で、表面に多糖類の存在することが示唆された。実際に、ヒアルロン酸フィルム上で細胞を培養したところ、細胞がほとんど付着しないことから、羊膜表面に存在する多糖類が細胞の付着を阻害していると考えられる。
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